「そういえば、田島くんは、なんで文化祭出たことないの?」
机2つ分の世界で、俺はただ紙を開いてはそこにまた紙を挟み込むという地味な作業を繰り返した。
俺は気になっていた事を問いかけた。
こんな、行事大好きそうな男が、文化祭に出なかった理由が予想できなかったから。
「ん〜。若王子くんは?」
俺よりも作業に夢中で、つむじを俺に向けたまま、返事をした。
「俺?…あんまり自分で言いたくないけど、顔がいいから、ミスターコンとか強制的に引っ張り出されるのが目に見えてるから」
「ミスターコン?なにそれ」
「カッコいい人ランキングみたいなやつ。クラスメイトだけじゃなくて、学校全体で決めんの」
「もしかして、1位?」
「…うん」
「すごいことやな。1位」
シンプルにすごいというだけの感情で言われたのは初めてだった。だいたいそのすごいには、嫌な感情も混じっていたから。
「でも、ミスターコンなんかいらない。俺がかっこいいのを認めてくれるのはいいけど、誰かとそれを競うとかは、なんか無理だったから、中3のときは文化祭サボった」
「おお〜じゃあ中3、高1と文化祭出てなかったんや」
「そのくらいの時期は謎の病に伏せってた。嫌だから休んだとかも察してもらいたくなくてさ」
「病に伏す、古文みたいやな」
クスクス、お互いにちょっとツボりながらパンフレットを折り進めた。
「顔がいいのも、大変なんやな」
「まあ、ね。田島くんは?」
俺なんかより、田島くんの話をちょっと聞いてみたい。
この人は俺にはグイグイ話させる、関わってくる割に、自分の話を避ける節がある気がした。
「俺?俺は、うーん。なんていうんやろ。興味なかった?みたいな」
「割と行事ごとには興味津々にみえるけど」
「見える?よく言われる」
ふっ、と笑う彼を見たくて手を止めた。
いつもの馬鹿笑いじゃなくて、大人びた、寂しさが遠くで透けて見える微笑みを少しの間、手を止めて見てしまった。
よく焼けた肌と節くれた指が折り目に沿って動く。なめらかに滑るその指先はささくれていた。
「俺は、気になる、好きなもんに一直線なタイプやねん」
「それはそうかもね」
「お前に言うてんねん」
「え?」