「え、修正?」
「ごめんなさい、写真部展示の記載がなかった。パンフレットに別紙挟み込んでいく対応にするから、」
どん、と机4つを向かい合わせにしたところに、
20cmくらいの紙束が4つ置かれていた。
足元には、カラーで印刷されたパンフレットが段ボールに入れられていて、持ち上げると紙のくせに鉄のように重い。コピー用紙より上質な、固い紙のそれはまだ三つ折りに畳まれていなかった。
「コレを折りながら、紙を挟み込んで、段ボールに入れてね。各学年、クラスごとに分けて。ついでに地域や一般用にも分けてください、ごめん。まじごめん」
「まじ…?」
お願い、と言わんばかりに頭を下げた生徒会長は足早に逃げた。(あれは絶対逃げた)
「え、パンフレット係って折っていく内職ってこと?ちょっと内職ってやってみたかったんよな〜」
いつものようにウキウキして仕事に取り掛かる田島くんをやっぱり理解できない。
作業机に置かれた600mlのペットボトルには真っ黒のコーヒーがたっぷり入っていた。
この前、家に帰る途中にある自動販売機で、田島くんが好きな缶コーヒーを見つけて買った。苦々しくて、焦げたサンマの尻尾みたいな味がするこの液体を、嬉々として飲む人が大人なら、俺は大人にはならなくていいなって思った。
『あ、やっぱコーヒーあかんねや。はいはい。わかおーじくんいちごミルクねー』
なぜか言われてないのに、頭の中の田島くんの音声データで無作為に作られたセリフが再生された。
まあ、なんて言いそうなセリフなんだ。
「田島くん、飽きたりしないの」
「飽きたら止めて別のことするし。あ、飽きたら歌う」
「突然歌わないで。びびる」
パンフレットを折り目に合わせて折って、その間に別紙案内を閉じる。
単調作業の繰り返し。しかも終りが見えない。
地獄の石積みのようだった。地獄には子供が河原で石を積んで、積み終わりそうになったら鬼がそれを崩してまたはじめから積ませるような地獄があるらしい。賽の河原?だとか。
今、俺と田島くんは二人して賽の河原にいるはずなのに、田島くんがまるでそれがうれしそうに作業を続ける。
文句言えないから俺も作業に取り掛かる。
田島くんとの地獄なら、なんだかんだで、楽しくやれそうな気がした。あくまで気持ちだけの話だから、実際に地獄に行くことがあればひきずりこまれるのは、多分俺の方だろうな。
黙々と作業をしていると、
夏休みに学校になんか来たことなかったのに、
文化祭なんか嫌な記憶があるのに、田島くんのせいで参加せざるを得ない状況なはずなのに、
なんでちょっぴり楽しみにしている自分がいるんだろうと思う。
次会うとき、気まずくなければいいなと思うくらいには、彼のことを考える時間が増えた。
この前、傘をさしているのに、濡れて帰って以降、今日が久々の再会だった。
連絡先も知らない。登校日に会うだけ、ジュースじゃんけんするだけの変わったクラスメイトを気に掛けるなんて。
俺は初めてだった。
朝、なんて声かけよう。おはよう、はマストだとして、ごめんなさい、なんていうのはなんか違う。別に悪いことしてない。でも逆ギレみたいなことやっちゃったし。
電車に揺られて、ありふれた風景を流し見しながら考えても、5駅過ぎても答えは見つからなかった。
未回答のまま、校門までやってきた俺を待っていた田島くんは
「おはよ。この前の小論模試どうやった?俺は途中寝てしまって、最後まで書けんかったわ」
といつもの歯がいっぱい見える笑顔で、
ちょっと模試についてまずい事を言いだしたから、気が抜けてしまった。
このクラスで、模試を真面目に受けないなんて。
高2で大学入試を視野に入れてないなんて信じがたい。
そんな田島くんの半袖シャツは真っ白で眩しかった。
多分これも田島くんなりの配慮なのかもとか思うけど、ちょっと癪に感じたから、なかったことにした。
「ごめんなさい、写真部展示の記載がなかった。パンフレットに別紙挟み込んでいく対応にするから、」
どん、と机4つを向かい合わせにしたところに、
20cmくらいの紙束が4つ置かれていた。
足元には、カラーで印刷されたパンフレットが段ボールに入れられていて、持ち上げると紙のくせに鉄のように重い。コピー用紙より上質な、固い紙のそれはまだ三つ折りに畳まれていなかった。
「コレを折りながら、紙を挟み込んで、段ボールに入れてね。各学年、クラスごとに分けて。ついでに地域や一般用にも分けてください、ごめん。まじごめん」
「まじ…?」
お願い、と言わんばかりに頭を下げた生徒会長は足早に逃げた。(あれは絶対逃げた)
「え、パンフレット係って折っていく内職ってこと?ちょっと内職ってやってみたかったんよな〜」
いつものようにウキウキして仕事に取り掛かる田島くんをやっぱり理解できない。
作業机に置かれた600mlのペットボトルには真っ黒のコーヒーがたっぷり入っていた。
この前、家に帰る途中にある自動販売機で、田島くんが好きな缶コーヒーを見つけて買った。苦々しくて、焦げたサンマの尻尾みたいな味がするこの液体を、嬉々として飲む人が大人なら、俺は大人にはならなくていいなって思った。
『あ、やっぱコーヒーあかんねや。はいはい。わかおーじくんいちごミルクねー』
なぜか言われてないのに、頭の中の田島くんの音声データで無作為に作られたセリフが再生された。
まあ、なんて言いそうなセリフなんだ。
「田島くん、飽きたりしないの」
「飽きたら止めて別のことするし。あ、飽きたら歌う」
「突然歌わないで。びびる」
パンフレットを折り目に合わせて折って、その間に別紙案内を閉じる。
単調作業の繰り返し。しかも終りが見えない。
地獄の石積みのようだった。地獄には子供が河原で石を積んで、積み終わりそうになったら鬼がそれを崩してまたはじめから積ませるような地獄があるらしい。賽の河原?だとか。
今、俺と田島くんは二人して賽の河原にいるはずなのに、田島くんがまるでそれがうれしそうに作業を続ける。
文句言えないから俺も作業に取り掛かる。
田島くんとの地獄なら、なんだかんだで、楽しくやれそうな気がした。あくまで気持ちだけの話だから、実際に地獄に行くことがあればひきずりこまれるのは、多分俺の方だろうな。
黙々と作業をしていると、
夏休みに学校になんか来たことなかったのに、
文化祭なんか嫌な記憶があるのに、田島くんのせいで参加せざるを得ない状況なはずなのに、
なんでちょっぴり楽しみにしている自分がいるんだろうと思う。
次会うとき、気まずくなければいいなと思うくらいには、彼のことを考える時間が増えた。
この前、傘をさしているのに、濡れて帰って以降、今日が久々の再会だった。
連絡先も知らない。登校日に会うだけ、ジュースじゃんけんするだけの変わったクラスメイトを気に掛けるなんて。
俺は初めてだった。
朝、なんて声かけよう。おはよう、はマストだとして、ごめんなさい、なんていうのはなんか違う。別に悪いことしてない。でも逆ギレみたいなことやっちゃったし。
電車に揺られて、ありふれた風景を流し見しながら考えても、5駅過ぎても答えは見つからなかった。
未回答のまま、校門までやってきた俺を待っていた田島くんは
「おはよ。この前の小論模試どうやった?俺は途中寝てしまって、最後まで書けんかったわ」
といつもの歯がいっぱい見える笑顔で、
ちょっと模試についてまずい事を言いだしたから、気が抜けてしまった。
このクラスで、模試を真面目に受けないなんて。
高2で大学入試を視野に入れてないなんて信じがたい。
そんな田島くんの半袖シャツは真っ白で眩しかった。
多分これも田島くんなりの配慮なのかもとか思うけど、ちょっと癪に感じたから、なかったことにした。