ゲリラ豪雨に見舞われたのは、下駄箱で靴を履き替えてからだった。

「うわぁ…」

バケツをひっくり返したような水量は、アスファルトを川に変えてしまった。

夕立と呼ぶには凄まじすぎるこの雨に、俺はただ立ちすくんでいた。

「なになに。…うわ、雨ヤバ」

遅れて隣に立った田島くんも、玄関から見える水量に驚きの声をあげた。

遠くで雷鳴がする。

「まあ、天気予報見てて良かったわ」

ばさ、と傘が開く音がして、振り向く。

「降水確率40%やったからさ」

「え、40%なのに傘持ってたの?」

「うん。だって4割やで。降る可能性全然あるやん」

「普通5割くらいから傘持たない?」

「その普通は、“若王子くん”の普通やな」

大きな、黒い傘は田島くんをすっぽり隠してしまいそうなサイズだった。

「コレ、ええやろ?ゴルフ用の傘。父親に貰ってん」

自慢げに傘をクルクル回す。
普通の学生が持つような華奢なものではなくて、
持ち手が木製の、きっと何千円もするような傘だった。

「え?俺と相合傘したいって?」

「一言も言ってないよ」

「もー、仕方ないなー。入れよ」

田島くんが手招きをした。

「悩んでたら電車、行ってしまうよ。ここはお前が得意な周りの空気に流されときなよ」

田島くんは、チラと校舎内にある壁掛け時計を見た。
薄々感じていたけど、田島くんは策士なところがある。

強引に、厚かましく俺に構って振り回しているように見えて、その底には計算された何かがある。

底が深くて見えないから、その何かが分からない。

「…駅までお願いします」

「うぃー。俺もそっち方面用事あるねん」