電車通学は憂鬱だ。
たった数駅の間、
同じ時間、同じ車両。
決まった時間に乗るのが、当たり前。
この、7時28分発の電車は、夏休みになってから、グッと制服姿の人が減った。息を吸い込む、ちょっと埃っぽい。
でも、幾分、前を向いて過ごしやすかった。
今まで、何度か、時間を変えてみたけど、どれに乗ってもちらちらと目線やカメラが自分に向けられるのが分かった。
たった数駅、我慢をすればいい。
それだけを繰り返してここまで来た。
夏休みがこれだけ学生の生活を変える力があるのか。
“これ”が続けばいいのに、とぼんやり考えながら、イヤホンをいじった。
「ねぇ、君。アイドルとか興味ない?」
駅構内で、スカウトマンを名乗る変な男性に捕まった。
最悪だった。
まだ、彼に出会わなければ、いつもの慣れた生活リズムで(田島くんのせいで、夏休み返上することになっているけど)
時間が潰れていくだけだったのに。
夏休みの駅構内は、制服姿の人は少ない。
だから余計に俺の存在が目立ったのだろう。
「…すみません。急いでて」
笑って誤魔化して横をすり抜けようとした。
俺の目の前を通せんぼする20代くらいの男性は、スーツなのに、黒いシャツは胸元まで開かれていた。
明らか俺が知っているような社会人ではない。
視界の片隅に入った『悪質なスカウト、客引き禁止!』と書かれたポスター。
この人はこのポスターを見たうえでやってるならすごい根性だな、と変に納得してしまう。
「いや、君のこと、SNSで見かけて。でも君のアカウントはないから。探してたんだよ」
「人違いです」
「人違いじゃないよ」
「すみません、本当に急いでて」
「今日君の学校別に模試とかないでしょ?」
左右に避けるように俺が動くと、スカウトマンもそれに合わせて動く。
周りの人はそれを避けるようにして、俺等を見捨てていく。
お前たちが勝手に盗撮したり写真アップロードするから俺がこんな目にあってるのに、どうして誰も手助けしてくれないんだ。
俺は観賞用だからか?なんて
勝手にネガティブになっていく。
「本当にすみません。友達が待ってて。学校行かないと行けないんで」
咄嗟に俺が右へ行くフェイントをかけて、スカウトマンが俺に合わせて動いた瞬間に左に抜ける。
「あっ!?ちょっと!」
まだ、足が、体が、サッカーをしていた時の動きを覚えてくれていて、助かった。
ただ、あの時より、体は重たくて、トップスピードには慣れなかった。ローファーが、固くて爪先で地面を強く蹴り出せない。ああ、やっぱりあの時より大人にはなってしまったのか。
「これ以上は、すみません!」
走る俺に振り返りながら、スカウトマンが言う。
「また、声かけさせてね!君!」
俺は一応お辞儀をして、駅を駆け抜けた。
たった数駅の間、
同じ時間、同じ車両。
決まった時間に乗るのが、当たり前。
この、7時28分発の電車は、夏休みになってから、グッと制服姿の人が減った。息を吸い込む、ちょっと埃っぽい。
でも、幾分、前を向いて過ごしやすかった。
今まで、何度か、時間を変えてみたけど、どれに乗ってもちらちらと目線やカメラが自分に向けられるのが分かった。
たった数駅、我慢をすればいい。
それだけを繰り返してここまで来た。
夏休みがこれだけ学生の生活を変える力があるのか。
“これ”が続けばいいのに、とぼんやり考えながら、イヤホンをいじった。
「ねぇ、君。アイドルとか興味ない?」
駅構内で、スカウトマンを名乗る変な男性に捕まった。
最悪だった。
まだ、彼に出会わなければ、いつもの慣れた生活リズムで(田島くんのせいで、夏休み返上することになっているけど)
時間が潰れていくだけだったのに。
夏休みの駅構内は、制服姿の人は少ない。
だから余計に俺の存在が目立ったのだろう。
「…すみません。急いでて」
笑って誤魔化して横をすり抜けようとした。
俺の目の前を通せんぼする20代くらいの男性は、スーツなのに、黒いシャツは胸元まで開かれていた。
明らか俺が知っているような社会人ではない。
視界の片隅に入った『悪質なスカウト、客引き禁止!』と書かれたポスター。
この人はこのポスターを見たうえでやってるならすごい根性だな、と変に納得してしまう。
「いや、君のこと、SNSで見かけて。でも君のアカウントはないから。探してたんだよ」
「人違いです」
「人違いじゃないよ」
「すみません、本当に急いでて」
「今日君の学校別に模試とかないでしょ?」
左右に避けるように俺が動くと、スカウトマンもそれに合わせて動く。
周りの人はそれを避けるようにして、俺等を見捨てていく。
お前たちが勝手に盗撮したり写真アップロードするから俺がこんな目にあってるのに、どうして誰も手助けしてくれないんだ。
俺は観賞用だからか?なんて
勝手にネガティブになっていく。
「本当にすみません。友達が待ってて。学校行かないと行けないんで」
咄嗟に俺が右へ行くフェイントをかけて、スカウトマンが俺に合わせて動いた瞬間に左に抜ける。
「あっ!?ちょっと!」
まだ、足が、体が、サッカーをしていた時の動きを覚えてくれていて、助かった。
ただ、あの時より、体は重たくて、トップスピードには慣れなかった。ローファーが、固くて爪先で地面を強く蹴り出せない。ああ、やっぱりあの時より大人にはなってしまったのか。
「これ以上は、すみません!」
走る俺に振り返りながら、スカウトマンが言う。
「また、声かけさせてね!君!」
俺は一応お辞儀をして、駅を駆け抜けた。