「ガーッ!この花飾りホンマにいるん?」

ティッシュみたいな薄さの上を何枚も重ねて、それを一枚ずつ広げていくと花のようになる飾り。

これも作るようにと指示があった手前、いらないなんて言えなかった。

今日の机を向かい合わせにして、段ボール箱から、花紙を取り出す。給食以来の机の使い方で、懐かしさを感じた。

この箱に、来年からは花飾りをそのまま使いまわせるように置いておこう。

「必要なんじゃない?」

不慣れな作業なのか、細かな作業が嫌いなのか、田島くんの机に置かれたそれは花というより、鼻をかんだティッシュみたいだった。

「まあ、そんなに個数は必要じゃないみたいだし」

学校の偉い人がくる、来賓室前の掲示板にに気持ち程度に貼り付けるから30個ぐらい必要だと言われた。

多分、偉い人はこんな飾りになんか興味ないと思う。でも、一応。なんて言われたらしかたなかった。

これを忖度というのかもしれない。

「田島くん。俺やっとくよ」

これ以上、鼻かんだティッシュ作られてもめんどくさいし。

「え?嫌や。俺もやるわ」

「じゃあ、せめて一緒に行程合わせてやってみようよ」

「ほんま?やり方教えてくれるん?ありがと!」

身を乗り出しながら俺の手元を覗き込む。

さほど変わったことはしていないのに、まじまじと見つめる姿を見て、真面目なんだなと新たな一面を知った。

「なるほどな。俺とやり方一緒なのに、何でか俺がやったらくちゃくちゃになるな」

「指先、あんまり力入れないほうがいい、かも。俺より指先太いし、多分力も強いから」

節くれた、男性らしさを感じる指先を田島くんは見つめた。

華奢な俺の指と違って、すぐに曲げ伸ばしができる筋肉の太さが感じて取れるその指は、慎重に動き出す。

「…できた」
ちゃんと花に見えるそれを両手で掲げて俺に見せてくれた。

「良かった。じゃあ続き、頼むね」


「若王子くん、教えてくれてほんっまにありがとう!」

真っ白な歯を見せて笑う。鋭い犬歯がちらりと見えた。

「大したことじゃないよ」

「教えてくれたやんか」

直ぐコツを掴んだのか綺麗な花を量産させながら俺に言う。

やっぱり、彼は、吸収力がすごい。
「俺の、やりたいを尊重してくれたし」

ルンルン、と指を動かす田島くんは鼻をかんだティッシュを創作しなくなった。

俺も置いていかれないように必死で、指を動かした。