「え、待って、コスプレ喫茶…?うちのクラス…?」

「うん、言ってなかったよね。ごめんね」

久々に模試があるついでに開かれたHRで、俺等のクラスの企画について発表された。

全くクラスの企画には関われていなかった俺たちは、その内容に衝撃を受けた。

「まじ?めちゃめちゃおもろそうやん」
呑気に田島くんが鉛筆を回しながら返事をしてしまったから、俺もいつもみたいにヘラヘラして話を流した。

まさかうちがコスプレ喫茶をするとは思ってもみなかった。

「来客する人が好きなコスチュームも着れるし、私らもコスチューム着て、対応するの」

クラスでも、俺の周りには絶対いた女子が企画運営してくれたようだった。

『なりたい自分に、その瞬間だけなれる。進路分岐喫茶』

それっぽい言葉が並べられた運営書を田島くんと二人で並べてみる。

衣装を業者や元々持っている子に頼んで運搬すれば出来るという気軽さから決定したようだった。

確かに演劇よりかは練習はいらない。

タイパ面を考えればマシだろう。

「田島と若王子くんは、基本服着て立ってて」

「え、ホールってこと?」 

「準備とか装飾とか、キッチンの準備は免除するから!お願い!若王子くんの力で集客したいの!」

「ははぁん!それが最初から目的やな!」

見え透いた魂胆をズバ、と言い当てた田島くんを、俺は横目で見ていた。
彼の目は、ずっと楽しそう。俺といるときも、誰といるときも。どうしてこんなになんでも楽しそうにいられるんだろう。疑問だった。

未知にたいして、不安や、一歩踏みとどまるとかないのか。
俺とちがって、嫌だと思いながら、ふわふわ流されるような感じじゃなくて、
自らその流れに飛び込んでいく田島くんを、俺は理解ができないと思った。
やっぱり別の世界の人、平行世界の人なんだ。

俺は、やっぱり文化祭が好きじゃない。
俺を中央に引っ張り出そうとする、その力技に対して、誰も止めようとしない。俺を祭りごとの中心に引っ張り出すのは当然だと思っている周りに嫌気がさした。


「何着るかまた当日教えて。
 ごめん。俺等準備あるから、もう帰るな。

今日はありがとう」

両手を合わせて、申し訳無さそうに笑うと、
企画説明をしてくれた女子が、嬉しそうに笑った。簡単な人だな。

俺が足早に教室を去る。

後ろからパタパタと田島がついてくる音がしたけど無視した。