「若王子くんは?俺の事、知ってる?…知らんやろ」

「…田島くん。周りが標準語なのに臆する事なく関西弁を堂々と話す人。明るくて声がデカい」

「明るく声デカいって…」

ちょっと呆れたような声が聞こえた気がした。
なんでちょっと物足りないみたいな反応してるか分からない。
明るくてデカい声。今まで並行世界から発せられる音だったのに、今は俺に向けて、俺の世界に踏み込んでくる。
俺に向けられるだなんて今まで考えたこともなかったのに、いつの間にずっと前からそうだったかのように俺の隣にいる。
アホそうに見えて、意外と周りをよく見ている、俺の世界にはいなかった人。宇宙人。

「…ジュースじゃんけんが好きな、変なやつ」


なんて言えないから、誤魔化してちょっとだけ付け足す。


「やっぱ、他人はわかり合えんな」

ニヤリ、笑って俺を置いて行く。
なにが彼の心に刺さったのかイマイチ分からなかったけど、
さっきの回答が良かったらしい。
変な奴っていうのは、普通に嫌味なんだけど。変な奴なのは事実。だって俺の世界にはいなかったタイプだから。

「あ、若王子くん。次、色塗る時、刷毛足らへんかも。帰り、職員室に取りに寄るん忘れんといて」

「はいはい。ジュースは?」

「今ちょっと小銭がないねん。…え、奢ってくださるんですか?」

「じゃんけんして、田島くんが勝てばね」

俺が横に並ぶように一段飛ばしで降りていく。

「え?勝つに決まってんやん」

「…フッ、どや顔すごいね」

俺が思わず笑うと、田島くんは

「ほんま。若王子くんがいつもそんくらい笑えればいいのにな」

と指さしていつもみたいに口をあけて、笑った。

いつも笑ってたつもりなのに意味が分からなくて、
そのことに返事はできなかった。
キンキンに冷やされたジンジャーエールの缶をじゃんけんの勝者に手渡すまで
その言葉の真意を考え続けていた。