「看板の下書き、やっときました」
「あ、ありがとう。俺等で絵の具で縁取りしていくよ」

後輩から下書きされた模造紙を受け取り、教室に広げる。

机と椅子は全て教室の後ろに積み重ねられていた。小学生の掃除の時以来久々に見た光景に懐かしさを覚えた。

早速与えられた仕事は、文化祭の時、校門に貼り付ける大きな看板の色つけだった。
下書きはある程度他の委員の子たちがやってくれていた。

「なぁなぁ、若王子くん。これ、縁取り黒?」
「黒だよ」
「筆でやったら手が震えそうやからマーカーでやったら駄目なんかな」
「さあ。一応全部ポスターカラーって聞いてたけど」
「聞いてくるわ。失敗したら時間もったいないしな」

終業式の後、圧に負けた俺は田島くんとは帰るまでにジュースじゃんけんして、1勝した。
いきなり初戦で勝ったとき、田島は思いの外悔しそうだったから、

次帰る時もじゃんけんしてあげたら、俺が負けた。
田島くんに負けるのは何か嫌、というか田島の煽りがウザくて、その次の日もう1戦したらまた負けた。

田島くんはブラックコーヒーかジンジャーエール、俺はコーラかいちごミルクを飲む。それもお決まりだった。

『コーヒー飲まれへんの?あら!まだまだ子供やな』

おばちゃんみたいな煽りは、ちょっとだけウザくて、ちょっとだけ笑った。男の子と純粋に遊んで馬鹿やって、なんで何年ぶりなんだろうかと振り返る。もしかしたらかなり前かもしれないな。

「いいよーって先生言うてるわ」

走って帰ってきた田島くんは教室のドアを開けるなり俺を見て言った。

「はい、マーカー」

マーカーも手に待っていて、仕事が早い。

俺は、田島君はいつも陽気でアホな男子だとばかり勝手に思っていたから、意外と冷静さもあると知って勝手に見直していた。

「はよやろうや」

教室の3分の1くらいある紙にうずくまるようにして線をなぞっていく。

終わる頃には他の生徒もまばらになっていた。
ちょうど15時頃で作業が終わった生徒は休憩に入ったり帰ったりしているようだった。

「これ、中の色はさすがに筆やな。太いマーカーでは間に合わん」

「そうだね」

「若王子先輩、私等がやるんで休憩入ってください」

後輩が俺に声かける。いつも名前を呼ばれるのは俺で、仕事をテキパキする田島くんはなかなか呼ばれない。
それがもどかしかった。美容師のカット写真と同じで、俺にばかりみんなが目を引いてしまう。

田島も田島でいつもみたいに自己主張したらいいのに、何でかこんな時は後ろに寄っている。


「ありがとう、ほな若王子くん休憩いこう」