「…さすがに怒った?なんか返事するん困ってそうやったから」

「うん、ちょっとね。…なんて嘘だよ」
どっちかっていうとすぐにはっきりした返事がいえない自分に怒った、という主語には()に入れた。

田島くんが肩を組みながら俺を覗き込む。

俺とは真逆のパーツ、ツリ目でシャープな顎のライン、笑うたびに見える八重歯。犬みたいだ。
身長はほぼ同じなのに、ガッチリした体をしたコイツのほうが背が高く見える。


「田島くんってさ、本当に友達いんの?」
勢い任せて出た言葉は失礼なもので、でも、これだけ自由奔放にしている彼に友達がいるのかも疑問で。

「え。クラスの人気者ですけども。若王子くん見てるやろ。
てか、凄いな。あの子、今更より戻そうとするなんて」

確かに男女分け隔てなく関わっている田島くんは人気者なのかもしれない。俺とはまた違う意味で。


「別にいいやんな。若王子くんが誰と一緒に夏祭り行ったって。どうせ夏休み俺と過ごすんやから」

「田島くんが勝手に決めたせいでね」

「なんだかんだで若王子くん、抵抗はしやんから不思議やわ。普通、嫌なもんとか嫌っていわへん?」


「…田島くんには多分理解できないだろうから言うつもりない」

「ふーん。まあ、他人やから理解できんとこはあるわな」

俺への拘束を解いた田島くんはニッコリ笑った。ちょっと不気味だった。

「正直、元カノがあんだけたくさんいて、新しい彼女の次々できるなんて。俺には理解でけへん」

俺にもなんでこんなことになるのか分からないと言ったら、
コイツも、「見た目が良いモテ男はいいな」と毒を吐いていくんだろうか。試したかったけどそれより先に彼が動き始めたから叶わなかった。

「ほな、帰ろうぜ。先に校門抜けた方がジュース奢りな」

「え、なんで?」

「えー!!やろうや!」

「ちょっと声小さくして!」

靴箱で、俺はローファー、田島くんはランニングシューズに履き替えて校舎を後にした。

17時を過ぎているのに青々とした空を仰ぐ。

いつもと違う夏休みが、始まる。