ハグができるように、叶人の目の前に移動した。いざハグしようとすると、心臓が爆発しそうな程にドキドキしてきた。

――なんだ、これ。まだハグしてないのに、もうドキドキしてるじゃん。心臓がバグってる。

 動かずじっと俺を見つめる叶人は今、何を考えているんだろう。

「で、では、いきますよ」
「は、はい。どうぞ」

 ぎこちない俺の言葉につられて叶人もぎこちなくなる。大切な宝物を包み込むように、俺よりもひと回り小さい叶人を優しくハグした。

 叶人の抱き心地は気持ちよく、すごくふわっとした。なんだろう、本当に羊毛みたいだ。そして俺の心臓の早さは更に――。

「わっ、なんでだろう。めちゃくちゃ僕の心臓がドキドキ早くてうるさくなった!」
「俺も同じく……すごい」
「やばい。僕、倒れそう」

 倒れそう?
 叶人の言葉を聞いて、慌てて離れた。

「ごめん、叶人。大丈夫か?」

 叶人は目を見開き、胸の辺りを両手でおさえている。

「な、なんかね、すごいの、おさまらないの。ドキドキが――」

〝恋をしていれば陽向も相手もドキドキする〟

 再び隼人先輩の言葉が脳裏によぎる。
 これはもう、確定かもしれない。

「叶人、驚かないで聞いてくれ」
「な、何? あらたまってどうしたの?」
「もしかしたら、俺らは……恋をしているかもしれない」
「こ、こひ?」