隼人先輩は顎に手を当てて、俺をじっと見る。
 真剣に考えてくれているのか。

「まぁ、とにかくあれだね。もやもやしてるなら、相手に直接聞いてみた方がいいかもね! まぁ、俺の勘だけど、相手も陽向のことをかなり意識してると思うよ。恋の人としてね」
「お互いに、恋とかそういうのではなくて……」

 俺がそう言うと、先輩はニヤッとした。

 叶人が俺を〝恋の人〟として意識しているのはありえないと思う。でも、聞いた方がいいのは、先輩の言う通りだよな――。

 今日この後、叶人に直接聞いてみるかな。俺のこと実際好きか、嫌いか。
 聞いてから聞かなければよかった的な返事が叶人から来ても嫌だな。

 あれこれ考えていると、コーヒーを飲んでいた最後の客が「お願いします」と、会計をしに来た。

 店は閉店した。店長含め三人で後片付けをし、ハンガーに黒いエプロンを掛けている時。

隼人先輩が耳元で「陽向、恋してるか確認する方法はハグをしてみるんだ。恋をしていれば陽向も相手もドキドキする。恋の一歩手前で、あともう少しの場合もハグによって相手を意識させることができる可能性もある。まぁ、それは確実ではなくて、俺の経験からのアドバイスだけどな」と囁いてきた。経験からのアドバイス……たしかに隼人先輩のようにカッコイイ人にハグされれば、恋に落ちる相手も多いだろう。先輩は経験豊富だな。

 というか、叶人とハグ!?

 叶人とは小さい頃から一緒にいるけれど、記憶の中では、手を繋いだことすらなくて触れたことは一度もない。叶人からは無理っぽいから、そうなると自分からハグを?

 いや、別にしなくてもいいんだけど。だけどちょっとしてみたい気もする。どんな感じなんだろうか――。

 カフェから出ると、叶人に『今から白いプリン渡したいから行くね』と連絡する。俺は叶人のことを100パーセントずっと考えながら、叶人の家に向かった。