**陽向視点

 カフェがもうすぐ閉店する時間だ。

 バイトが終わったら、あらかじめ購入してカフェの冷蔵庫の隅にそっと置いてある、白いプリンを叶人に届ける予定だ。これならもしも叶人の体調が完全に回復していなくて、食欲がなくても食べられそうな気がしたから――。

「好きではない」と言われたり、叶人が学校で倒れたり。いつもより、叶人のことで頭が忙しい。

 俺がバイトをしているカフェは、10のテーブルと、カウンターにも並んで座れる椅子がある。そしてお洒落な雑貨が飾られていて、ゆったりとしたオルゴール音の曲が流れている。今、そんな店内で女性客がひとりだけ、コーヒーを飲んでいた。暇だと叶人のことを考えすぎるから、こんな時は客がたくさん入ってきて忙しくなればいいのにと思う。

「陽向、何かあった?」

 カウンターで俺の横に立っている隼人先輩が俺の顔を覗き込んできた。もやもやしていることを先輩に勘づかれたのか。

 隼人先輩はここで一緒にバイトをしている大学生。ちょっとチャラいけど、見た目はかなり整っていて、先輩目的でカフェに来てるっぽい客もいる。仕事もできてとても頼りになる先輩だ。

 悩み相談してみようかな――。

「あの、ふたりきりの時に『大好き』ってお互いに言い合った人がいるんですけど、その人が俺の友達の前で、はっきりと言ったんすよ。俺のことを『好きではない』って……」

 もやもやしていたことをため息と共に、先輩に吐き出した。

「お、恋の悩み?」
「いや、恋ではなくて……」
「それは恋だな。何、どんな関係でどんな子なの?」
「幼なじみで、可愛くて。何でも知りたくなるような不思議さもあって、何でもしてあげたくなるような……」
「かなりの溺愛だな。幼なじみの恋か……そんな子に『好きではない』って言われたら、それは辛いわな。でもふたりの時には『大好き』と……。照れ隠しじゃないか?」

 隼人先輩は腕を組みながら、うんうんと自分の言葉に頷いた。
 いつの間にか恋の話になっている。

 恋……そういえば、学校で夏樹も俺らのこと〝恋人みたい〟って言っていたな。その時に叶人は俺のことを「好きではない」って。

 叶人の言葉を思い出すたび、心臓がぎゅっとして痛くなる。