**叶人視点


――僕たちが恋人みたい?

 僕は陽向くんが大好きだけど、友達というか親友というか、魂の繋がりの関係でというか……とにかく、恋人って意味での、そんな好き(・・・・・)ではない。

それよりも、陽向くんとふたりだけの世界で羊毛フェルト制作作業をしていたのにさ、陽向くんのクラスメイトがたくさん陽向くんに話しかけていて……。気持ちがグチグチしてきて、嫌だなって思っていたらお腹痛くなってきたから、教室に戻った。本当に僕はお腹が弱くて、気持ちが不安定になるとすぐお腹が痛くなる。今までは陽向くんはお腹の薬のようでもある存在だから、一緒にいるとお腹が痛くなることはなかったのに。

 午後からの数学の授業は、気持ちがもんもんとしていた。

 放課後、いつものように陽向くんが教室に迎えに来てくれた。

「叶人、かえ、ろ?」
「う、うん」

 陽向くん、ちょっと元気がない?
 そんな気配を感じながら、自転車置き場へ一緒に向かう。

「今日は陽向くんバイト休みだよね?」
「うん」
「うさぎのもっふんちゃま制作、この後一緒にやるよね?」
「……いや、今日はやめとく」
「どうして? もしかして陽向くんもどこか調子が悪いとか?」
「いや、そんなんじゃないけど」

 陽向くんの目は魚のようにあちこち泳いでいる。そしていつもは優しい目で僕を見つめてくれるのに、一度も目が合わない。

 僕たちはそれぞれ自転車に乗る。
 いつもは僕が自転車の鍵を開けて乗って、動く準備が終わるまで必ず待ってくれていたのに、先に進んでいく陽向くん。

――どうしたんだろう。

 胸の辺りをズキンとさせながら、陽向くんの後を追った。お腹がもっと痛くなってきた。

***