昼休みに叶人が俺の教室に来て弁当を食べ、一緒に羊毛フェルト制作作業をする。そんな生活を始めてから数日が過ぎた。

 一人通れるぐらいの距離がある隣の席。そこの席のクラスメイトはいつも昼休みになると、この教室からいなくなる。叶人が教室に入ってくると、俺の前の席にいる夏樹はそこに自ら移動してくれた。そして夏樹の席には叶人が座る。

 夏樹は頬杖つきながら、こっちをじっと見ていた。

 かまわず俺らは黙々と作業をする。昼休みや放課後に叶人も頑張ってくれているお陰で、順調にウサギは完成へと近づいている。顔や胴体の他に、手足もできてきた。後は耳や尻尾と、顔とかの細かい部分、か? この調子なら、なんとか間に合いそうだ。

「ふたり、めちゃくちゃ仲良いよな」

 夏樹が話しかけてきた。

「うん、俺ら昔からずっと仲良いよ」
「陽向の、雪白への好きってオーラがダダ漏れだよな」
「うん、俺、叶人のこと大好きだもん」

 夏樹の言葉に、流れるような返事をしながら作業を進める。

「なんか、ふたり恋人みたいだな」

――こ、恋人?

 俺の手が止まった。
 ふたりの関係が恋人なんて、初めて言われた。

 叶人はどんな反応をしているんだろうか気になって、チラリと視線を叶人に向けた。

 叶人も動きが止まっている。

「雪白も、陽向のこと大好きっぽいよね?」

 当たり前だ。こないだだって、お互いに〝好き〟って言葉をきちんと確認しあったし。
 
「そんな好きではないし……」

 無表情で羊毛フェルトを見つめたまま、気のせいかいつもよりも低い声で叶人はそう言った。

 ん? 今の叶人の言葉はまぼろしか?

 ありえない。俺のこと、好きではないとか。
 ありえない、ありえない――。

 しかも叶人は「ちょっと体調不良になったから、教室に戻るね?」って、教室から出ていった。

 なんで?

 叶人は一体どうしたんだ――?

「俺、なんかまずいこと雪白に言った?」
「いや、うん。いや、どうだろ……」

 夏樹に質問されるも、答えが全く見つからない。

 叶人の「そんな好きではないし……」って言葉が何度も頭の中で繰り返され、胃がギリギリと痛くなってきた。