2月になった。
僕の家はどこかに隙間があるのか、ストーブがめらめらしててもストーブから離れると寒い。それに比べて悠生くんの家はすごく暖かい。マンションだから、周りに住んでいる人たちの家の暖かさと混ざっているのかな? 僕は寒がりだから、悠生くんの家で遊ぶのが最近のお気に入り。
「毎年冬にね、スキー温泉旅行に行くの」
「いいなぁ、僕も一緒に行きたいな」
今日も悠生くんの家で遊んでいた。その時に「遊べない日ってある?」って聞かれて、そう答えた。
僕の話を聞いた悠生くんも、旅行に行きたいって。
うち、小谷家と怜くんの家族、園田家は昔から仲良くて、一緒に旅行も楽しんでいた。だいたいスケジュールは決まっていて、冬休み中か、2月の最初辺りの休日に。朝に家を出てスキー場に向かい、スキーのあとは温泉があるホテルで泊まる感じ。
お母さんたちに悠生くんが行きたがっていることを伝えると、すぐに「いいよ」って言ってくれた。家族には僕と悠生くんが付き合っているってことはまだ内緒で。仲の良い友達だって伝えている。
今のところ、悠生くんが僕の恋人だってことは、怜くんしか知らない。
怜くんとは大晦日の日からちょっと気まずい。旅行中もそんな雰囲気のままなのかな?って考えると心がチクチクしちゃう。
今日は旅行の日。
それぞれ家族ごとに車を出した。悠生くんは、僕と一緒に小谷家の車に乗った。うちの車の席は3列で一番前にお父さんお母さん。真ん中に僕たち、一番後ろは椅子をたたんでスキーとか荷物が置いてある。
スキー場に着くまでだいたい2時間ぐらいかかる。冬道は雪がじゃまして、もっとかかるっぽい。悠生くんと一緒にスマホでゲームをしてたけど、途中でちょっと酔ってきちゃった。車を停めてもらって、道の駅で休憩した。具合悪いのが治まってきてからトイレに行くと、怜くんとばったり。僕は慌てて目をそらしちゃった。
「どうした? 顔色悪いけど、具合悪いのか?」
「う、うん。でも休んだから大丈夫だよ」
それだけ言うと、逃げるように僕は車に戻っていった。本当はさけたくないのに、あの日以来気まずいのは、僕の方からさけちゃってるからっぽい……。
「どうしたの? まだ調子悪い?」
車に戻ると、悠生くんが僕の顔を覗き込んだ。
「酔ったのは、休んだからもう大丈夫だけど……」
「だけど?」
「トイレで怜くんと合って、話しかけてくれたのに避けるようにトイレから出てきちゃった」
悠生くんは無言で一番後ろの席にある毛布を手に取った。そしてそれをふたりの膝にかけて。
「先輩のことばかり考えないでよ……寂しい」って小さい声で言って、誰にも見えないように手を握ってきた。
そうだよね、悠生くんは僕が好きで。
好きな人が別の人の話ばかりしてちゃ、寂しいよね。
スマホばかり見ている怜くんの姿が頭の中に浮かんできた。また怜くんのこと考えちゃった。
僕は間違えた絵をぐちゃぐちゃと黒いペンで消すように、怜くんのことも頭の中から消した。
「悠生くん、ごめんね」。
スキー場に着くと、僕たちの車は並んで停まった。駐車場から大きな山の全体が見える。混んでいなくて、人のいないところだらけだから、のびのび自由に滑れそうかな? 混んでいたら誰かにぶつかっちゃいそうになるから、今日は安心。
スキー靴を履いたり準備をしたあとは「楽しんでおいで」って怜くんのお父さんが言って、いつも親たちと僕たちの2組に分かれる。親たちは一番難しい上級コースに。
僕は毎年、怜くんと中級レベルぐらいのコースを滑っている。中級でも僕にとっては難しくて、転ばないようにゆっくりとスキーで滑ってく。怜くんはすいすいボードで先に進んでいって、僕との距離が広がったら止まって僕を待ってくれている感じ。
今年は僕と怜くん、そして悠生くんの3人。
中学時代、授業でスキーをした時はレベルごとにグループが分かれて滑る感じだったんだけど、悠生くんは一番うまいグループにいた気がする。
ふたりは運動が得意で、僕は……苦手。
もう運動全部が苦手。
3人で2人用リフトの乗り場に並んだ。
一番前は怜くん。次は僕で後ろが悠生くん。2人ずつ乗るから、怜くんの隣に乗るつもるだったけど。後ろからぎゅって腕を引っ張られて、悠生くんが「一緒に乗ろう」って。
ひとりでリフトに乗った怜くんが一瞬こっちを向いて、ぷいってしてきた。
リフトに乗った瞬間、ため息をまた外に出しちゃった。ぷいってされたのがショックで。
最近ため息、たくさん外にこぼしちゃうな……。
「歩夢くん、どうしたの?」
「あのね、今、怜くんにぷいってされたの」
僕は前のリフトに乗っている怜くんの背中を見つめた。
「歩夢くんが僕と一緒にリフトに乗ったからかな?」
「えっ? 僕のせい?」
「……歩夢くんって、鈍感だね」
「何? いきなり鈍感とか言われても意味が分からないよ。なんで?」
「教えない!」
どうして教えてくれないの?
ぷいってされた理由と鈍感って言われた理由をなんでだろうって考えていたら、いつの間にか降りる場所に着いていて、あわててリフトから降りたら転んだ。
次に降りてくる人たちの邪魔になっちゃうから移動したいけど、立ち上がれなくなっちゃった。
「歩夢……」
「歩夢くん、大丈夫?」
怜くんが近づいてきて助けようとしてくれたけど、悠生くんが先に目の前に来て手を出してくれた。僕は悠生くんの手を掴んで立つと急いで移動した。
怜くんと目が合うとすぐにそらされちゃった。
「行くぞ」って怜くんの声を合図に、僕たちも滑っていく。ふたりとも、やっぱりすごく上手くて。僕の滑るスピードに合わせてくれている。ちなみに僕はずっと全力。
何回も滑って、全部悠生くんとリフトに乗っていた。けれどラストって時に「最後、俺と乗ろ」って怜くんに誘われて、嬉しくなって笑顔で返事をした。
乗っている間は怜くん、ずっと無言だったけど、僕の気持ちはるんるんしていた。
僕の家はどこかに隙間があるのか、ストーブがめらめらしててもストーブから離れると寒い。それに比べて悠生くんの家はすごく暖かい。マンションだから、周りに住んでいる人たちの家の暖かさと混ざっているのかな? 僕は寒がりだから、悠生くんの家で遊ぶのが最近のお気に入り。
「毎年冬にね、スキー温泉旅行に行くの」
「いいなぁ、僕も一緒に行きたいな」
今日も悠生くんの家で遊んでいた。その時に「遊べない日ってある?」って聞かれて、そう答えた。
僕の話を聞いた悠生くんも、旅行に行きたいって。
うち、小谷家と怜くんの家族、園田家は昔から仲良くて、一緒に旅行も楽しんでいた。だいたいスケジュールは決まっていて、冬休み中か、2月の最初辺りの休日に。朝に家を出てスキー場に向かい、スキーのあとは温泉があるホテルで泊まる感じ。
お母さんたちに悠生くんが行きたがっていることを伝えると、すぐに「いいよ」って言ってくれた。家族には僕と悠生くんが付き合っているってことはまだ内緒で。仲の良い友達だって伝えている。
今のところ、悠生くんが僕の恋人だってことは、怜くんしか知らない。
怜くんとは大晦日の日からちょっと気まずい。旅行中もそんな雰囲気のままなのかな?って考えると心がチクチクしちゃう。
今日は旅行の日。
それぞれ家族ごとに車を出した。悠生くんは、僕と一緒に小谷家の車に乗った。うちの車の席は3列で一番前にお父さんお母さん。真ん中に僕たち、一番後ろは椅子をたたんでスキーとか荷物が置いてある。
スキー場に着くまでだいたい2時間ぐらいかかる。冬道は雪がじゃまして、もっとかかるっぽい。悠生くんと一緒にスマホでゲームをしてたけど、途中でちょっと酔ってきちゃった。車を停めてもらって、道の駅で休憩した。具合悪いのが治まってきてからトイレに行くと、怜くんとばったり。僕は慌てて目をそらしちゃった。
「どうした? 顔色悪いけど、具合悪いのか?」
「う、うん。でも休んだから大丈夫だよ」
それだけ言うと、逃げるように僕は車に戻っていった。本当はさけたくないのに、あの日以来気まずいのは、僕の方からさけちゃってるからっぽい……。
「どうしたの? まだ調子悪い?」
車に戻ると、悠生くんが僕の顔を覗き込んだ。
「酔ったのは、休んだからもう大丈夫だけど……」
「だけど?」
「トイレで怜くんと合って、話しかけてくれたのに避けるようにトイレから出てきちゃった」
悠生くんは無言で一番後ろの席にある毛布を手に取った。そしてそれをふたりの膝にかけて。
「先輩のことばかり考えないでよ……寂しい」って小さい声で言って、誰にも見えないように手を握ってきた。
そうだよね、悠生くんは僕が好きで。
好きな人が別の人の話ばかりしてちゃ、寂しいよね。
スマホばかり見ている怜くんの姿が頭の中に浮かんできた。また怜くんのこと考えちゃった。
僕は間違えた絵をぐちゃぐちゃと黒いペンで消すように、怜くんのことも頭の中から消した。
「悠生くん、ごめんね」。
スキー場に着くと、僕たちの車は並んで停まった。駐車場から大きな山の全体が見える。混んでいなくて、人のいないところだらけだから、のびのび自由に滑れそうかな? 混んでいたら誰かにぶつかっちゃいそうになるから、今日は安心。
スキー靴を履いたり準備をしたあとは「楽しんでおいで」って怜くんのお父さんが言って、いつも親たちと僕たちの2組に分かれる。親たちは一番難しい上級コースに。
僕は毎年、怜くんと中級レベルぐらいのコースを滑っている。中級でも僕にとっては難しくて、転ばないようにゆっくりとスキーで滑ってく。怜くんはすいすいボードで先に進んでいって、僕との距離が広がったら止まって僕を待ってくれている感じ。
今年は僕と怜くん、そして悠生くんの3人。
中学時代、授業でスキーをした時はレベルごとにグループが分かれて滑る感じだったんだけど、悠生くんは一番うまいグループにいた気がする。
ふたりは運動が得意で、僕は……苦手。
もう運動全部が苦手。
3人で2人用リフトの乗り場に並んだ。
一番前は怜くん。次は僕で後ろが悠生くん。2人ずつ乗るから、怜くんの隣に乗るつもるだったけど。後ろからぎゅって腕を引っ張られて、悠生くんが「一緒に乗ろう」って。
ひとりでリフトに乗った怜くんが一瞬こっちを向いて、ぷいってしてきた。
リフトに乗った瞬間、ため息をまた外に出しちゃった。ぷいってされたのがショックで。
最近ため息、たくさん外にこぼしちゃうな……。
「歩夢くん、どうしたの?」
「あのね、今、怜くんにぷいってされたの」
僕は前のリフトに乗っている怜くんの背中を見つめた。
「歩夢くんが僕と一緒にリフトに乗ったからかな?」
「えっ? 僕のせい?」
「……歩夢くんって、鈍感だね」
「何? いきなり鈍感とか言われても意味が分からないよ。なんで?」
「教えない!」
どうして教えてくれないの?
ぷいってされた理由と鈍感って言われた理由をなんでだろうって考えていたら、いつの間にか降りる場所に着いていて、あわててリフトから降りたら転んだ。
次に降りてくる人たちの邪魔になっちゃうから移動したいけど、立ち上がれなくなっちゃった。
「歩夢……」
「歩夢くん、大丈夫?」
怜くんが近づいてきて助けようとしてくれたけど、悠生くんが先に目の前に来て手を出してくれた。僕は悠生くんの手を掴んで立つと急いで移動した。
怜くんと目が合うとすぐにそらされちゃった。
「行くぞ」って怜くんの声を合図に、僕たちも滑っていく。ふたりとも、やっぱりすごく上手くて。僕の滑るスピードに合わせてくれている。ちなみに僕はずっと全力。
何回も滑って、全部悠生くんとリフトに乗っていた。けれどラストって時に「最後、俺と乗ろ」って怜くんに誘われて、嬉しくなって笑顔で返事をした。
乗っている間は怜くん、ずっと無言だったけど、僕の気持ちはるんるんしていた。