歩夢、そろそろ帰ってくるのか?
うちの2階にある自分の部屋の窓から外をしばらく眺めていた。歩夢の家の玄関前が見えるから、帰ってきたかがすぐに分かる。スマホを見ながら、気がつけばもう1時間ぐらい外を見ていた。
昼過ぎた頃、歩夢がうちに戻ってきた。あいつと……。
しかも手を繋いでいる。じっと見ていると歩夢がちらっと一瞬こっちを見て、手をぱっと離した。歩夢は晴れているような感じの表情をしていたのに、俺を見た瞬間にその表情はくもりだした。
ふたりは玄関前で親しげに何かを話している。気がつけば階段を急いで下り、コートも着ないで外に出ていた。
「歩夢!」
ふたりが一斉にこっちを見た。
「怜くん……神社も今、行ってきた」
視線をこっちに合わせない歩夢。
「そっか、行ってきたんだ……」
なんでだろう。
寂しさが心の中に沁み広がっていく。
「歩夢くん、僕たちのこと教えてあげたら?」
「悠生くん、でも……」
「別に悪いことじゃないし、隠さなくてもいいと思うよ」
もじもじししている歩夢にあいつはそう呟く。しばらくふたりは見つめあっていた。そしてあいつだけがこっちを向き、はっきり堂々と、俺に向かってこう言った。
「あの、実は僕と歩夢くん、恋人として付き合い始めました」
「……はっ?」
「怜くん、でもね……」
続けて歩夢が何かを言おうとしたけど、あいつは歩夢の口を押さえ、それを止めた。
予想外すぎる話。
頭の中が真っ白になって、しばらく何も考えられなかったし、言えなかった。
ショックすぎて、胸が苦しくなってずどんとその言葉がのしかかってきて。
――潰されそうだ。
「歩夢くん、またね! 寒いとこにしばらくいて身体が冷えていると思うから、家では風邪ひかないように暖かくしてね」
「気にしてくれてありがとう。悠生くんもね!」
「うん、あとで連絡するね!」
結局俺はあいつの言葉に返事は出来ず、じっとふたりを眺めているだけだった。
あいつの姿が見えなくなってから歩夢に話しかけた。
「なぁ、なんで俺とじゃないの?」
「えっ?」
「初詣だよ。毎年一緒に行くのが当たり前だったじゃん」
「……そうだけど。怜くんが言ったんだよ『友達と行けば』って」
「言ったけど……」
うん、確かに俺が言った。
だけど結局はなんだがんだで今年も一緒に行くと思うじゃん。歩夢も同じふうに考えてるって思ってた。なのに……。
「はぁ……付き合ったとかも意味わからねぇ。俺も今から神社行ってくるわ」
「ひとりで行くの?」
「そうだけど」
「僕も一緒に行く? 寂しくない?」
「別に寂しくねーし。寂しかったら俺もお前以外のやつと行くし」
「でも……」
困り顔している歩夢に背を向けて神社に向かった。ひとりで。
きっと後ろで立ち止まって、そのままの顔でこっちを向いているんだろうな。
道を曲がる時ちらっと後ろを見た。
予想とは違って、歩夢の姿はなかった。
むしゃくしゃする。
それは歩夢が最近想像とは違う行動をしてくるからか。
――それとも。
歩夢のこと、お前って言っちゃったな……。嫌な気持ちにさせたかな。
寂しかったら歩夢以外のやつと行くって言ったけど、歩夢以外に一緒に行きたいやつなんていない。本来は単独行動が好きだ。でも歩夢だから、歩夢とだけは一緒にあちこち出かけたくなる。
今向かっている神社までは、家から歩いて15分くらいで着く。でもそれはひとりで歩く場合。歩夢は歩くのが遅いから、一緒の時はもっと時間がかかる。だけどそれも嫌じゃない。一緒に歩く時間も好きだから。
歩きながら考えた。
あいつと歩夢はこの道をどうやって歩いたのか。俺と一緒の時はだいたい俺が前を歩いている。そしてどっちかと言うと歩夢が後ろから話しかけてくる感じだ。
あいつといる時の歩夢はどうなんだろう。
どっちが前を歩くのか。それとも横に並んであるくのか。どっちから話しかけることが多いのか。どんな会話しながら歩いたのか……。
ふわっと、ふたりが手を繋ぎながら楽しそうに会話している風景が浮かんだ。
考えれば考えるほど胸が苦しくなってくる。
神社に着いた。
参拝する人たちの列は長い。俺みたいにひとりで来ている人もいるけど、友達同士や家族、それに恋人と来ている人も多くて。なんか楽しそうに会話している人や、会話はないけれど一緒にいるだけで幸せそうな人たちばかりが目に入ってくる。俺と歩夢も去年まではそんな感じだった。
歩夢に、素直に一緒に行こうって言えてたら、今頃俺たちも一緒に並んでいるはずだった。素直じゃない自分に嫌気がさす。
深いため息が勝手にこぼれてきた。
とりあえず一番後ろに並んだ。歩夢と一緒にいる時に比べたら、順番が来るまですごく暇で、時間がめちゃくちゃ長く感じた。
やっと順番が来た。
俺らが健康であるようにと祈り、それから『ずっと歩夢と近くにいたい』とも祈った。
それからおみくじを引いた。
末吉で恋愛は『浮気心は捨てろ』。
浮気って、恋人いねえし。
歩夢は今年、おみくじを引いたのだろうか。多分こういうの信じるタイプだから、いつもみたいに俺がおみくじの場所まで連れていかなくても引いたんだろうな……。
――どんなおみくじを引いたんだろう。
うちの2階にある自分の部屋の窓から外をしばらく眺めていた。歩夢の家の玄関前が見えるから、帰ってきたかがすぐに分かる。スマホを見ながら、気がつけばもう1時間ぐらい外を見ていた。
昼過ぎた頃、歩夢がうちに戻ってきた。あいつと……。
しかも手を繋いでいる。じっと見ていると歩夢がちらっと一瞬こっちを見て、手をぱっと離した。歩夢は晴れているような感じの表情をしていたのに、俺を見た瞬間にその表情はくもりだした。
ふたりは玄関前で親しげに何かを話している。気がつけば階段を急いで下り、コートも着ないで外に出ていた。
「歩夢!」
ふたりが一斉にこっちを見た。
「怜くん……神社も今、行ってきた」
視線をこっちに合わせない歩夢。
「そっか、行ってきたんだ……」
なんでだろう。
寂しさが心の中に沁み広がっていく。
「歩夢くん、僕たちのこと教えてあげたら?」
「悠生くん、でも……」
「別に悪いことじゃないし、隠さなくてもいいと思うよ」
もじもじししている歩夢にあいつはそう呟く。しばらくふたりは見つめあっていた。そしてあいつだけがこっちを向き、はっきり堂々と、俺に向かってこう言った。
「あの、実は僕と歩夢くん、恋人として付き合い始めました」
「……はっ?」
「怜くん、でもね……」
続けて歩夢が何かを言おうとしたけど、あいつは歩夢の口を押さえ、それを止めた。
予想外すぎる話。
頭の中が真っ白になって、しばらく何も考えられなかったし、言えなかった。
ショックすぎて、胸が苦しくなってずどんとその言葉がのしかかってきて。
――潰されそうだ。
「歩夢くん、またね! 寒いとこにしばらくいて身体が冷えていると思うから、家では風邪ひかないように暖かくしてね」
「気にしてくれてありがとう。悠生くんもね!」
「うん、あとで連絡するね!」
結局俺はあいつの言葉に返事は出来ず、じっとふたりを眺めているだけだった。
あいつの姿が見えなくなってから歩夢に話しかけた。
「なぁ、なんで俺とじゃないの?」
「えっ?」
「初詣だよ。毎年一緒に行くのが当たり前だったじゃん」
「……そうだけど。怜くんが言ったんだよ『友達と行けば』って」
「言ったけど……」
うん、確かに俺が言った。
だけど結局はなんだがんだで今年も一緒に行くと思うじゃん。歩夢も同じふうに考えてるって思ってた。なのに……。
「はぁ……付き合ったとかも意味わからねぇ。俺も今から神社行ってくるわ」
「ひとりで行くの?」
「そうだけど」
「僕も一緒に行く? 寂しくない?」
「別に寂しくねーし。寂しかったら俺もお前以外のやつと行くし」
「でも……」
困り顔している歩夢に背を向けて神社に向かった。ひとりで。
きっと後ろで立ち止まって、そのままの顔でこっちを向いているんだろうな。
道を曲がる時ちらっと後ろを見た。
予想とは違って、歩夢の姿はなかった。
むしゃくしゃする。
それは歩夢が最近想像とは違う行動をしてくるからか。
――それとも。
歩夢のこと、お前って言っちゃったな……。嫌な気持ちにさせたかな。
寂しかったら歩夢以外のやつと行くって言ったけど、歩夢以外に一緒に行きたいやつなんていない。本来は単独行動が好きだ。でも歩夢だから、歩夢とだけは一緒にあちこち出かけたくなる。
今向かっている神社までは、家から歩いて15分くらいで着く。でもそれはひとりで歩く場合。歩夢は歩くのが遅いから、一緒の時はもっと時間がかかる。だけどそれも嫌じゃない。一緒に歩く時間も好きだから。
歩きながら考えた。
あいつと歩夢はこの道をどうやって歩いたのか。俺と一緒の時はだいたい俺が前を歩いている。そしてどっちかと言うと歩夢が後ろから話しかけてくる感じだ。
あいつといる時の歩夢はどうなんだろう。
どっちが前を歩くのか。それとも横に並んであるくのか。どっちから話しかけることが多いのか。どんな会話しながら歩いたのか……。
ふわっと、ふたりが手を繋ぎながら楽しそうに会話している風景が浮かんだ。
考えれば考えるほど胸が苦しくなってくる。
神社に着いた。
参拝する人たちの列は長い。俺みたいにひとりで来ている人もいるけど、友達同士や家族、それに恋人と来ている人も多くて。なんか楽しそうに会話している人や、会話はないけれど一緒にいるだけで幸せそうな人たちばかりが目に入ってくる。俺と歩夢も去年まではそんな感じだった。
歩夢に、素直に一緒に行こうって言えてたら、今頃俺たちも一緒に並んでいるはずだった。素直じゃない自分に嫌気がさす。
深いため息が勝手にこぼれてきた。
とりあえず一番後ろに並んだ。歩夢と一緒にいる時に比べたら、順番が来るまですごく暇で、時間がめちゃくちゃ長く感じた。
やっと順番が来た。
俺らが健康であるようにと祈り、それから『ずっと歩夢と近くにいたい』とも祈った。
それからおみくじを引いた。
末吉で恋愛は『浮気心は捨てろ』。
浮気って、恋人いねえし。
歩夢は今年、おみくじを引いたのだろうか。多分こういうの信じるタイプだから、いつもみたいに俺がおみくじの場所まで連れていかなくても引いたんだろうな……。
――どんなおみくじを引いたんだろう。