「ごめん! すぐ拾うから」

 屈んでノートを集める。すると八尾もその場にしゃがみ込み一緒にノートを拾い始めた。

 ビックリして拾う手を止めてしまうオレに代わり、残りのノートは八尾が全て回収し、床で揃えるようにトントンと慣らして、揃えたノートを差し出してくれた。

「ケガねぇか?」

 オレの顔を覗き込むように見てきた八尾に、つい、視線を反らしてしまった。

「う、うん」

「悪かったな。おまえなかなか一人にならねぇから。隙を見て後つけるしかなかった」

 隙を見て?
 八尾が後ろにいたのって、偶然じゃなかったのか!?

 ふと、八尾に視線を向ける。今は睨まれていなかった。

 ――ということは、やっぱり優冴が原因だったんだろうか。薄々そうかもしれないとは思っていたけど、”優冴に近づくな”みたいな嫉妬心から、オレはこの1年半もの間、八尾に睨まれていたんだ、と、確信した。

 そう考えるとなんだか八尾に対して申し訳なく感じてしまう。

 今この場に優冴はいない。ずっと抱いていた疑問を晴らす時がきた。

「あのさ、八尾って……」

「大志でいい」

「たい、し……くん……」

「『くん』はいらねぇけど」

「ごめん! た、大志……」

 ほぼ初会話で、なんで名前呼びにさせるんだよ!

 つーか、クラスの皆も「八尾」って呼んでるし、オレだって八尾って呼びたいんだけど。……なんて、全然喋ったことのないオレが言えるわけもなく、言われた通り”大志”と呼ぶことにした。

「あのさ、大志はなんでオレの後をつけてたの?」

「水樹の連絡先、知りたかったから」

「オレの? ……優冴じゃなくて?」

「あ? 難波の連絡先は知らなくていい」

「……でも、オレじゃなくて、優冴に聞いた方が早いんじゃ」

 いや、1年半もの間オレは優冴の傍にいるだけで大志に睨まれていたんだ。

 優冴の連絡先を教えてあげた方がいいのかもしれないというオレの気持ちは、ただのお節介でしかないのかもしれない。

 余計な気遣いはやめようと、口を閉じ喋ることを止めた。

 オレの連絡先を知りたいと引き下がらない大志に連絡先を教えるべく、おとなしくズボンのポケットからスマホを取り出し、自分のQRコードを差し出した。すると、大志もズボンのポケットから自分のスマホを取り出しオレの画面を読み込んだ。

 画面を見ると大志が友達登録され、オレ達は画面上友達になった。