優冴はとにかく女子にモテる。女子達が優冴を見てキャーキャー騒ぐのも頷ける。だってオレが一番身近で優冴がモテるのを見ているから。


 オレに彼女ができないのは「残念だね」で済ませられるけど、優冴に彼女がいないのは「残念だね」で済ませられることではない。


 オレが優冴だったら彼女の一人や二人すぐに作っちゃうのに。


 授業の始まりを告げるチャイムが鳴ると、優冴は「じゃあ、また後で」と、自分の席へ戻って行った。


 そんなオレ達を遠くの席から見ている男が一人いる。八尾大志(はちおたいし)


 金の髪色をしている八尾の耳には大量のピアスが付いている。いわゆる不良だ。顔もカッコイイ。金髪にピアスはカッコイイやつしか許されない特権だと思う。


 そんな八尾はよくオレを見ては睨んでいる。


 何かしただろうかと、高1の時から思い続けて早1年と半年が過ぎた。優冴にも相談したけれど「考えずぎ、気にしなくていいよ」と言われ気に掛けないようにしていた。けれど、こうして目が合ってしまえばやっぱり気になる。


 八尾とは喋ったことがない。これからも喋ることはないのだろうと、八尾から目を離し、机の上に視線を戻す。


 今日もいつも通り授業が始まり、いつも通りの一日が過ぎていく。


「英語のノート持って行くんで、教卓の上に置いてくださーい」


 今日が日直のオレは、教卓の上に提出されたノートを預かり、教室を出て廊下を真っ直ぐ進む。階段を下っていると背後から妙な気配を感じた。


 やっぱり優冴に着いてきてもらえばよかったと反省しつつ、小走りになる。すると、後ろのヤツもオレを追いかけ、走りだした。


 階段を下りた瞬間殴られる覚悟を決め、後ろを振り返る。急に止まって後ろに振り返ったせいで、

「おい、なに……ぶわっ!?」

 小走りでオレの後ろを歩いて来ていた人とぶつかった。

 目を見開くと八尾が立っている。

 その拍子に両手で持っていたノートを廊下に散らしてしまい屈んで集める。


 ここには八尾のノートもある。オレ、殺されるんだろうか。