校舎から飛び出し唯の元へと急ぎ足で向かう。だけど、その一歩一歩が重く感じられた。
宙くんと彗の口論が頭から離れない。特に彗の、あの荒れた声。

彗があんな風に感情を露わにするなんて…初めてだった。
胸の奥で不安が渦巻く。あの瞬間、彗は明らかに怒っていた。でも、それだけじゃない──その声には、どこか苦しさが滲んでいた気がする。

一体、彗は何にそんなに囚われているの…?

彗の顔は見えなかったけど、声だけで彼の表情を思い描くことができた。怒りだけじゃなく、苦悩や葛藤が彼を追い詰めているのかもしれない。

君は───何を抱えてるの?

前までの私なら、全てを怖がって逃げ出してしまうかもしれない。
でも今は違うんだ。彗の声が私を引き戻してくれたんだ。
彼が何かに苦しんでいるのなら、その原因を知りたい。そして二人の喧嘩を止めたい。私がただ逃げていても、何も変わらない。

自分の名前が話題にあがったことへの不安は消えないけど、それ以上に彗が抱えている何かを知りたい気持ちの方が今は強かった。
そうして歩いていくうちに唯の姿が前方に見えてきた。私は自然と足を速め、彼女に追いつく。

「想乃、遅かったじゃん!何かあったの?」
唯がいつもの明るい声で私に問いかける。

さっきのことを話すべきか、頭の中で一瞬迷った。
宙くんと彗の口論、そして私の名前が出てきたこと…。それを唯に話せば、彼女も心配するだろう。
でも、もう私は自分の心に嘘はつかないって決めたんだ。自分の心に正直に生きるって。
だから、私は勇気を振り絞って言葉を紡ぎ始めた。

「実は、教室に戻ったとき、宙くんと彗が…喧嘩してて…」
自分の声が少し震えているのを感じながらも、唯に真剣な目を向ける。

「えっ!?何があったの!?」
唯の目が驚きとともに見開かれる。

その反応を見て、一瞬またためらいが胸をよぎる。
でももう隠さない。私はゆっくりと、さっきのことを唯にすべて話した。