「なんか今日想乃ぼーっとしてたね。考え事？」
放課後、私の隣にやってきた唯が不思議そうな顔で声をかけてきた。

彼女の言葉に、私は少しだけ微笑んで振り返る。
「そんな風に見えた？」
笑顔は作らない。無理に取り繕う必要なんてないんだって、最近気づいたから。

「うん。普段より心ここに在らず…みたいな！今日はなんか違うなって思ってさ」
唯は軽く首をかしげて、私をじっと見つめる。
私は少し迷った。唯に隠し事をしたいとは思わない。

けれど話しても理解されることはないだろう。"彗の仮面にひびがね…"なんてことを話し出したら本当に頭がおかしくなったのかと心配されてしまう。

私は少し考えたあと、結局まだこの事は言えないと思い「昨日徹夜しちゃって眠くて！そのせいかも」と答える。嘘をついた罪悪感が胸をさすが今回ばかりは仕方ない。

「そうだったの？あんま無理しちゃだめだよ！」
唯はいつもの優しい表情で私に笑いかけて「じゃあまた明日ね！」と軽く手を振って部活へと向かった。

そんなやりとりを終えたあとに、ふとお父さんからメッセージが送られていることに気付く。お父さんとは連絡なんてほぼとらないのに何かあったんだろうか？
急いでスマホの画面を開いて確認すると、そこには[今日は早めに帰ってきなさい]という文が表示されていた。

「何だろう…」
胸の奥で徐々に不安が広がっていく。
その短いメッセージを見るだけで、嫌な予感が胸を締め付ける。彗のことも気になるけれど今日はひとまず家に帰ろう。

一体何があるのか分からないまま、心に不安が募っていくのを感じながら私は家の問題が重くのしかかる予感がしていた。