朝食を済ませ、周囲の賑やかな雰囲気に溶け込んでいるとふと目の前を莉桜が通り過ぎようとしてるのに気づく。
「…り、莉桜!」
私の声に気付き、こちらを振り返る莉桜と目が合う。話すんだ、ちゃんと。
そう思ったはずなのに、仮面が目に入ってきた途端に言葉がでてこなくなる。

「ぁ…」

『あんたなんて…産まなきゃよかった』
あの時と同じ仮面。不満、嫌悪、怒り、悲しみ。
なんで今…でてくるの。お母さんは関係ないじゃない。莉桜とは関係ないのに、あの時言われた言葉と仮面が彼女と重なって気持ちが崩れてしまう。
さっき覚悟を決めたばっかりなのに、変わりたいって思ってるのに。

「なに…もう私行くから」
私が固まっている間に莉桜は踵を返して友人の元へ行ってしまった。
違う。こんなことがしたいわけじゃない。
それなのに、仮面に浮かんだ表情を見るとどうしても考えてしまう。

皆も__両親のように私を嫌ってしまうのかな。
私がいるせいで喧嘩が起きて、家はぐちゃぐちゃで自分がいなければよかったと何度も思った。
産まれた頃から憎まれていた私の…ありのままを見せたら皆離れていくのかもしれない。

「想乃?大丈夫?」
昨日の肝試しでペアになった子と盛り上がっていた唯は話を終えて私の方へと戻ってくる。
心配そうな目で見つめる唯に「大丈夫だよ」と急いで伝える。

「…ほんとに大丈夫?」
唯の言葉に、心の中で揺れる感情がさらに激しくなった。私の「大丈夫」はもうただの癖になってしまっているんだと気付く。
仮面をつけることで本当の感情を隠してしまうのは、まるで自分を守るための防具だ。

「うん、大丈夫」
私は笑顔を浮かべて返した。
あぁ、私は仮面で自分を守っていただけだったのか。
相手の仮面も、自分の仮面だって…壊せるかもしれない。彗と話した時みたいに素直になれるかもしれないってそう思っていた。

でもそれは私にとってきっと、自分を守るヘルメットを外して思い切り地面に突っ込んでいくようなものだ。怖いんだ。
痛いかもしれない、取り返しがつかなくなるかもしれないって…逃げたくなる。その恐怖が私を引き止めるんだ。