その時、木々の間から突然明るい光が差し込み、近くで話し声が聞こえてきた。
振り返ると、彗が私を探しているのが見えて目を見開いてしまう。なんで彼がここに…。

「想乃!」
彗の声が暗闇の中で私に届いた。いつもよりも張られた声に少し驚く。
彼は周囲を懸命に探しながら私の名前を呼んでいた。

「彗…ここ!」
私は全身の力を振り絞って声を出す。彗がその声を聞きつけ、急いで私の方に向かって走り寄ってきた。

「はぁ…この歳で迷子って、何してんだよ」
彗は息を切らしながら、言い方は冷たいもののほっとしたような表情を浮かべていて心配してくれていたみたいだ。

「大丈夫か?」
そう言って彼から差し伸べられた手は、あの時の男の子が重なって見えて一瞬目を見開いてしまう。
無愛想な印象の彼と、あの子は真反対だというのに。

「なんで莉桜とはぐれた?」と彗が複雑そうに尋ねる。

「えっと…私が間違えて別の方向行っちゃってたの」
私は声を震わせながら嘘を答えた。
莉桜のことを悪くいう訳にはいかない。あれは怒らせてしまった私の責任でもある。
彗は納得していないような表情をしながらも「…わかった。戻るぞ」と言って、私の腕を優しく引きながら暗い道を進み始めた。
その手は暖かくて、なんだかほっとする。もう誰も来ないかもしれないと思っていた。

私はその優しさに胸を打たれながら、彗に従って慎重に歩いた。

しばらくすると、ようやくホテルの明かりが見えてくる。彗は私を見守りながらも、急がなければならないと感じている様子だった。
私もその焦りを感じながら、彗と一緒に早足でホテルの方向へと戻った。

入口に着くと先生や班のメンバー達が立っていた。そのなかにはもちろん莉桜もいる。彼女は私を見るとほっとした表情を浮かべるも罰が悪そうな顔をしている。彼女の仮面には、私がいなくなったことに対する内心の焦りや不安が隠されているようだった。

「想乃!心配したよ」
「大丈夫?怪我とかしてない…?」
唯や宙くんが心配の言葉をかけてくれて申し訳なくなってしまう。

「ごめん…迷子になっちゃって」と皆に恐縮しながら謝ると、莉桜は何も言わずにただ私を見つめていた。
彗は莉桜に一瞥をくれ再び冷たい表情に戻るものの、私の頭に軽く手を置く。
その手はすぐ離れていってしまったがやはり暖かさを感じて、彗の優しさが込められている気がした。