「んん…ぅ、ふわぁ…」
久しぶりにずいぶん長く眠った感覚があり、体全体が心地よく痺れている感覚がある。
眠気を覚ますように目を擦っていると首の辺りに何かかたいものがあるのを感じた。
暖かい。なんだろう、これ。ていうか私なんでそもそも寝てたんだっけ…。
ゆっくりと上を見上げると冷ややかな目をした彗と目が合う。
「……?」
なんでここに彗が…。

「おはよ。俺の肩がそろそろ凝るんだけど」

「あ…!」
彗の言葉にばっちり目が覚める。そうだ。修学旅行にきてバスの中で爆睡していたのだ。
しかも、彗の肩にずっともたれかかって…。
理解した瞬間に一気に羞恥の念が全身にみなぎる。

「…えっと私どれくらい寝てた?」
すぐさま彗の肩から頭をどかす。

「一時間くらい。もうすぐ目的地つくよ」
ふぅ…と肩をならしながら平然と語る彗に開いた口が塞がらない。一時間も私は彗の肩を借りて寝てしまっていたなんて。

「本っ当にごめん!肩痛かったよね…重いだろうし」
どうしても自責の念にかられてつい大きな声がでてしまう。

「別にこんくらい大丈夫だって、一応バスケ部だし」
彗はぶっきらぼうに言いながら、まだ肩を軽く回している。その言葉にはいつもの冷たい響きがあったけれど、どこかその奥に優しさが垣間見える気がする。

「でも、本当にごめんね…」
まだ申し訳ない気持ちが拭えずにそう言うと、彗は不満そうに眉をひそめた。

「もういいって。俺の肩は頑丈なんだよ」

彗はそう言って肩をポンポンと叩く。ちょっと大袈裟にやってみせる彼についクスッと笑いがこぼれてしまう。

「ふふ、なにそれ変なの」
私はつい笑ってしまった。気まずさが少し和らぎ、心が軽くなるのを感じる。
いつもはしないような彼の行動にやっぱり何だかんだ優しいんだよなぁと心の中で思う。

「さっきのひっどい顔よりだいぶ良くなったな」
不意に彗がそうつぶやいた。その言葉に少し驚いてしまう。
きっと馬鹿にしてるだけなんだろうと思っていたけれど、彼なりに心配はしてくれていたようだ。

「うん…ありがと、彗」
そう言って顔をあげると彗は一瞬だけ、ほんの少しだけ笑った気がした。でもそれはすぐに消えてしまった。

笑みを浮かべて伝えると、バスのアナウンスが響き渡る。
「みんなー、もうすぐ目的地に着くから準備してー!」
教師の声にバスの中が一気にざわめき始める。
修学旅行の最初の訪問地が近づいていることを知らせるアナウンスだ。

「さ、行くぞ」
彗は窓の外を見つめながらそう言う。私は頷き周りの人達と一緒に荷物を手に取った。
これから起こることに不安はあるものの、眠れた事によってか昨日よりかは気分はマシになっていた。