「結局なんだったんだろう…」
置いてけぼりになってしまった私の独り言に唯が「どうかしたの?」と聞いてくるがううんと返して私も席に着いた。

宙くんが何を言いたかったのか気になりながらも私は授業に集中した。
午前が終わり、午後は修学旅行のことについて決める時間だった。それぞれ今決まっている班でまとまって話を進めていく。

続々と周りの生徒達も班が決まっているようだけれど私達の班はもう一人をどうするか考えていた。

「んー、あと一人どうする?」
唯や彗達と一緒の班になりたいという人は多いけれどこの中に"一人"で入るという勇気がある人はやはり出てこない。もし私が同じ立場だったらそうなるだろうと思う。
やっぱり私が抜けた方が…とそんなことを考えていた時に一人の声が聞こえてくる。

「私、はいろうか?」
顔を上げるとその声の主はなんと、莉桜だった。
私はその事に一瞬驚いてしまう。莉桜は他のグループに所属しているし、正直特別話す訳でもない。
たまに愚痴を聞いたりする程度の関係だ。

「えー!莉桜いっちゃうの?」
「あっち四人みたいだし困ってるじゃん!私は別に大丈夫だよ」
「もうー!優しいんだからー!」

「もうやめてよお」と少し残念そうな顔を浮かべながらわざとらしい言葉を紡いでいる。莉桜の仮面はそれとは真反対に桃色に染まっていて、嬉しそうな表情をしているというのに。

「ほんとにいいの?莉桜」
「いーのいーの!宙もいるしね」

宙くんに話しかけられたことによって先程よりいっそう仮面の色が濃くなる。宙くんのことが好き…?
そんな事をふと考えるも彼女には彼氏がいたことを思い出す。
元々宙くんと莉桜はクラスが3年間同じだし仲が良いことはおかしいことではない。でも仮面の色…それは恋や愛情を表すときにでるものだ。


そんな時、唯が声を抑えながら私に話しかけてくる。
「莉桜も乗り換え早いよねぇ…」
「…え?乗り換えってどういうこと?」
「ん?想乃も知ってるでしょ?莉桜この前彼氏と別れたの。それで次は宙くんね」

やれやれ…とため息をついている唯の隣で私はつい固まってしまいそうになる。初めて聞いた事だった。
いつもはりのんから話をしてくることが多かったのに、本人の口から一度もそんな事は聞かされていない。
そういえば…昨日もそうだった。いつも不機嫌な時にりのんが私に向かって話すことが多いのに私から聞いたのだった。

ちらっと莉桜の方を向くと目が合う。
「ぁ…りの」
「それでね!この前宙が言ってた…」
声をかけようとするもすぐに目は逸らされて遮られてしまう。聞こえてなかった…?いや違う。確実に聞こえていた。
聞こえていたはずなのに…明確な意志をもって無視をしていた。
何かしてしまったのだろうか。仮面を見て生活をして相手の機嫌を伺うことは得意だ。学校では…揉め事も、嫌われる事だってないのだ。

「想乃…?どうかした?」
つい下を向いてしまっていた私に唯が声をかけてくる。
「ぇ…あ、ごめん!大丈夫。大丈夫だよ」
すぐに笑顔を貼り付ける。こんなことで心配をかけさせる訳にはいかない。
そんなことを自分に言い聞かせるも、やっぱり心の不安はなくなってはくれなくて。

授業の終わりのチャイムを告げると共に、私は早くも修学旅行が不安になっていた。