その夜は宙との会話の余韻を抱きながら、想乃の家に向かって歩いていた。今日はどうしても彼女と話したかった。
[話したい。時間あるか?]とメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。
[ 大丈夫だよ ]
急に勝手なことを言ってしまったにもかかわらず優しい想乃の返事に心がほっとする。
彼女の家まで迎えに行き、近くの公園に言って話を始めた。
「なにかあったの?」
笑みを浮かべる彼女を見ていると愛おしさが湧いてきて、何ともない会話で自然と嬉しくなる。
「あぁ。宙と和解できたよ」
具体的な内容は伏せつつ、今日あった出来事を想乃に伝える。宙が言っていた『優しい未来』という言葉から察するに、きっとどこかで彼女が支えてくれていたのだろうと気付いていた。
「…ありがとな。想乃」
笑みを浮かべてそう伝えると、想乃は少し驚いた表情を見せたがすぐに俺と同じように笑顔を浮かべる。
「うん…! 」
その笑顔を見るだけで心が暖かくなるのを感じる。彼女の存在がどれだけ自分にとって大事なものになっていたのか、実感する。
「少し歩くか?」
夜の静かな街を二人で歩く。月明かりが優しく照らし、風が心地よく流れていた。
その空間はどこか特別で幸せが溢れていた。
そんな時間のなかで自分の気持ちを今、伝えるべきなんじゃないかと思った。ずっと隠し続けてきたこの想いを。
「想乃、聞いてほしいことが…」
いつもよりも胸が高鳴ったその時だった。
突然目の前に映る光景に息を呑んだ。想乃のすぐ後ろからパーカーを深く被った刃物を持った男がゆっくりと近付いていたのだ。通り魔?まさか、そんな…。
「っ…想乃、!!」
咄嗟に彼女を守ろうと駆け寄るが、男はその瞬間を狙って鋭い刃を突き立てた。
「え…?」
刺されたのは───想乃だった。想乃の瞳が驚きに見開かれ、口からは血が零れ出す。彼女の体が倒れそうになる寸前に抱き止めた。だが当の犯人はそのまま逃げ去ってしまう。
「っ!くそっ…待て!!!」
追いかけたい気持ちが溢れるが、想乃をこの場に置いていくわけにはいかない。焦りと恐怖が胸を締め付ける。
「っ…想乃、大丈夫か。まってろ今すぐに救急車を…!」
呼吸が乱れ、震える手を抑えながら応急処置を施して必死で想乃を救おうとする。血の匂いが鼻をつき、苦しさが襲ってくる。
その時、想乃が力ない手で俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「…ぃ、大丈夫…だからね?彗」
彼女は優しく微笑んでいた。その笑顔は、俺の胸を激しく締め付ける。
過去の情景が一気に蘇る。
血にまみれた父の姿。冷たくなった体。
『ご…め…んなぁ……』
その声が、想乃の微笑みと重なり合う。今また同じことが繰り返されそうになっているのか。
俺は、結局守れないのか…?もしこんな夜に呼び出さなければ。もし俺が彼女を"好き"になっていなければ。
────関わりさえしなければ。
「うっ……」
湧き上がるものを無理やり抑える。俺が過去の戒めを、一瞬でも忘れたからだ。
全部全部…俺のせいだ。俺が生まれてきたから父は帰らぬ人となった。俺の存在が母をあんな風にしてしまったんだ。それなのに、なんで普通に生きようとしてるんだ。
あの時と同じ感覚だ。花火の美しさに舞い上がっていて絶望に突き落とされた…あの日と変わらない。
俺は、救急車が来るまでただ彼女の手を握ることしかできなかった。
[話したい。時間あるか?]とメールを送ると、すぐに返事が返ってきた。
[ 大丈夫だよ ]
急に勝手なことを言ってしまったにもかかわらず優しい想乃の返事に心がほっとする。
彼女の家まで迎えに行き、近くの公園に言って話を始めた。
「なにかあったの?」
笑みを浮かべる彼女を見ていると愛おしさが湧いてきて、何ともない会話で自然と嬉しくなる。
「あぁ。宙と和解できたよ」
具体的な内容は伏せつつ、今日あった出来事を想乃に伝える。宙が言っていた『優しい未来』という言葉から察するに、きっとどこかで彼女が支えてくれていたのだろうと気付いていた。
「…ありがとな。想乃」
笑みを浮かべてそう伝えると、想乃は少し驚いた表情を見せたがすぐに俺と同じように笑顔を浮かべる。
「うん…! 」
その笑顔を見るだけで心が暖かくなるのを感じる。彼女の存在がどれだけ自分にとって大事なものになっていたのか、実感する。
「少し歩くか?」
夜の静かな街を二人で歩く。月明かりが優しく照らし、風が心地よく流れていた。
その空間はどこか特別で幸せが溢れていた。
そんな時間のなかで自分の気持ちを今、伝えるべきなんじゃないかと思った。ずっと隠し続けてきたこの想いを。
「想乃、聞いてほしいことが…」
いつもよりも胸が高鳴ったその時だった。
突然目の前に映る光景に息を呑んだ。想乃のすぐ後ろからパーカーを深く被った刃物を持った男がゆっくりと近付いていたのだ。通り魔?まさか、そんな…。
「っ…想乃、!!」
咄嗟に彼女を守ろうと駆け寄るが、男はその瞬間を狙って鋭い刃を突き立てた。
「え…?」
刺されたのは───想乃だった。想乃の瞳が驚きに見開かれ、口からは血が零れ出す。彼女の体が倒れそうになる寸前に抱き止めた。だが当の犯人はそのまま逃げ去ってしまう。
「っ!くそっ…待て!!!」
追いかけたい気持ちが溢れるが、想乃をこの場に置いていくわけにはいかない。焦りと恐怖が胸を締め付ける。
「っ…想乃、大丈夫か。まってろ今すぐに救急車を…!」
呼吸が乱れ、震える手を抑えながら応急処置を施して必死で想乃を救おうとする。血の匂いが鼻をつき、苦しさが襲ってくる。
その時、想乃が力ない手で俺の袖をぎゅっと掴んだ。
「…ぃ、大丈夫…だからね?彗」
彼女は優しく微笑んでいた。その笑顔は、俺の胸を激しく締め付ける。
過去の情景が一気に蘇る。
血にまみれた父の姿。冷たくなった体。
『ご…め…んなぁ……』
その声が、想乃の微笑みと重なり合う。今また同じことが繰り返されそうになっているのか。
俺は、結局守れないのか…?もしこんな夜に呼び出さなければ。もし俺が彼女を"好き"になっていなければ。
────関わりさえしなければ。
「うっ……」
湧き上がるものを無理やり抑える。俺が過去の戒めを、一瞬でも忘れたからだ。
全部全部…俺のせいだ。俺が生まれてきたから父は帰らぬ人となった。俺の存在が母をあんな風にしてしまったんだ。それなのに、なんで普通に生きようとしてるんだ。
あの時と同じ感覚だ。花火の美しさに舞い上がっていて絶望に突き落とされた…あの日と変わらない。
俺は、救急車が来るまでただ彼女の手を握ることしかできなかった。