少しの沈黙が教室を包んでいたけれど、私はその時間を焦らず待つことにした。そしたらふっと彼が小さく息を吐いた。

「ありがとう、想乃ちゃん。なんか…すっきりしたよ」

その言葉に、少しだけ肩の力が抜けたように思う。
宙くんは普段から優しいから、いつも自分の感情を抑えてしまっている。
でもこうして少しだけでも解放できたのなら、自分の行動が報われたと思った。

「心配しないで。最後は…俺たちでちゃんと乗り越えるよ。彗とももっとちゃんと話すよ

宙くんの言葉には、どこか決意の色が見える。彼の中で何かが少し動き出したようなそんな気がした。

「うん、応援してるよ」

私は静かにうなずいてから宙くんに「またね」と伝えて少し安心した気持ちで教室を出ようとした。
けれどその瞬間にふと、言い忘れていたことを思い出した。

「宙くん!!」
急に振り返って叫んだ私に、宙くんは少し驚いた様子でこちらを見た。

「私、修学旅行の時、彗にも助けられたけど…きっと宙くんがいなかったらあの時頑張れてなかったと思うんだ。だからね、本当にありがとう」

そう言って、私は満面の笑みを宙くんに向けた。───心からの感謝を込めて。

宙くんはきょとんとした顔をしていたけれど、すぐにその表情が柔らかい笑顔に変わった。そしてその瞬間、宙くんの仮面がぱりんと壊れて消えていく。まるでそこには何もなかったかのように見えなくなる。
その光景に、私ももう驚きはしなかった。

「どういたしまして」

優しい声でそう言ってくれた彼に、私もまた軽くうなずいた。そして今度こそ教室のドアを開けて外に出た。

「ははっ…叶わないなぁ」
後ろから何かが聞こえたような気がして振り返るけれど、そこには宙くんが窓の向こうを見つめている姿があるだけだった。
まるで何か悟ったような笑顔を浮かべていて。何か言ったのかと思ったけれど、きっと気のせいだろう。

深くは考えずに、私はそのまま廊下を歩き出した。