数秒間の沈黙が流れる。その間、私は自分の言葉が突飛すぎたかも…と少し後悔した。だって、彼の過去はこんなにも重くて辛いものなのにそんな軽い誘いで心を動かせるはずがないかもしれない。

でも、ほんの少しでも彼を救いたかった。

「……うん、行きたい」

彗が静かに、しかし確かにそう言った瞬間私の胸の中に安堵の波が広がる。いつもとは少し違う子供らしい言い方がなんだか可愛く感じられてしまう。

「本当に!?良かった!」

気づけば少し飛び跳ねるような気持ちで声を上げていた。彗はそんな私を見て、少しだけふっと笑った。
その笑顔は短いけれど、確かに「温かさ」を感じさせた。花火大会、一緒に行けるんだ…その一瞬の喜びに包まれたけれどすぐに一つの疑問が浮かんだ。

待って…そういえば彗と宙くんの喧嘩って、今の話と関係あるのかな?
そう考えると、どうしても気になり始める。元々それについても聞きたくてここまで来たのだ。

さっき、彗は自分の過去を話してくれた。でも宙くんとの喧嘩の理由については特に何も言っていなかった。
もしかして、それが関係しているのだろうか…。それとも全く別のこと?

「ねぇ、彗…」

少しためらいながらも、私は勇気を振り絞って聞いてみる。

「宙くんと喧嘩したことって、さっきの話が原因なのかな?」
彗の顔が一瞬で固まった。その瞳の奥に一瞬の迷いが見えたけど、すぐに困ったような笑みを浮かべた。

「…ごめんな、それは言えない」

その言葉に、私の胸の中に少し寂しさが広がった。
あぁ…やっぱり、言いたくないんだよね。これ以上聞くのは無理かもしれない。

「そっか…。分かった、無理に聞いてごめんね」

笑顔を作ろうとしたけどやっぱり少し力が入ってしまった。でも、それでも、彗が少しずつ心を開いてくれているのは確かだと思う。
過去の重荷を背負いながらも彼は少しずつ前に進もうとしている。

私は花火大会までに何か少しでも彼のために現状を変えられたら…と強く思う。
彗の仮面が完全に壊れる瞬間、その時彼が本当の笑顔を見せてくれる日を心から待っていた。