彗が静かに話を終えた時、私の胸の中にはいくつもの感情が渦巻いていた。
やっぱり、あの時の花火の夜私を助けてくれたのは彗だったんだ…。

その事実がようやくはっきりしたのに、それ以上に彼が背負ってきた過去の重さに押しつぶされそうだった。自分のことじゃないのにどうしようもなく胸が苦しくて、泣きたくなった。

静かな沈黙が二人の間に広がる。

彗は目を伏せたまま、何も言わない。彼の仮面が壊れかけているのは分かっていた。ところどころにヒビが入り崩れかけている。
けれど肝心な部分はまだ見えていない。
目も、口も、彼の本当の感情はまだその奥に隠れていた。

「彗…」

気づけば、私は彗を抱きしめていた。温かさを感じるけどそれ以上に彼の体から伝わる冷たさが痛かった。

「頑張ったね…彗。もう、辛い想いはしないでいいんだよ…」

自分でも驚くほど自然に出た言葉だった。
彼がこれまでどれだけ辛い思いをしてきたのかその一部しか私は理解できていないかもしれない。

でも、今この瞬間だけでも、彼にそう伝えたかった。

彗は何も言わずただ抱きしめられるままだった。
彼の背中に手を回しそっと力を入れる。彼を救いたい、そんな気持ちが溢れて止まらなかった。

ふと、彗の背中越しに仮面が見えた。
そこに浮かぶ色は悲しみの「青」だった。彼が今どんなに辛い気持ちでいるのかが表情が見えなくても色だけで、痛いほど伝わってくる。

私は彗をこの過去から救いたいと思った。
彼がこんなにも傷ついてきたのならば、私は彼を少しでもその痛みから解放してあげたい──そう強く感じた。

「彗…!花火大会、一緒に行こう!」

私が勢いよくそう言うと、彗は驚いたように顔を上げて一瞬目を見開いた。