そもそも最初から俺が関わるべきじゃなかった。

バスケットボールが想乃にぶつかって怪我をさせた。もし宙に保健室に連れていかせていたら、俺が話しかけずに試合を続けていたら。

───1番初めは笑顔が胡散臭いヤツだった。自然と目で追っていた。不自然な笑顔を貼りつけて話す彼女は…嘘で出来ていて、見ていてムカついて、少しだけ苦手な部類だった。

でも、見ていくうちに彼女の印象は変わっていった。

帰り道が同じだということに気がついた。後ろから見かける時は大体友達と一緒にいて、でもたまに一人で帰る姿を見かける。

そういう時の彼女は、いつもとは違う道を通ったりしている。
年寄りのばぁさんが転んだ時に手を貸してたり、道端にある小さい花の写真を撮ったり。道端で泣いている子供を見つけて、少し迷いながらも声をかけてあげていたり。

ある時には公園にいる猫に一人で話しかけていたり。

猫に逃げられて落ち込んでいため息をつく彼女を見ているとつい笑いが込み上げてくる。

「っ…ふは、何してんだ」
つい声が漏れるほどには面白くて、自然と口角が上がった。
きっと誰にも見られていないと思っているのだろう。そう、この時だけは…彼女は誰の為にしているわけでもないのだろう。

そんなことしたって誰にも褒められないのに。
馬鹿な奴って思いながら、でも頭の片隅では彼女の優しさに惹かれていたのかもしれない。

それでも、関わることなんて今後ないと思っていた。
あの時俺は咄嗟に声をかけてしまったんだ。彼女の心に触れたいと思ってしまったんだ。