⑨『キューピーさん』
(イタリアのヴェニスの小さな教会の前にある狭い石畳でのひとコマ)

最後にご紹介するのは、表紙の写真の女の子です。
ピンクのニット帽を目深に被って、ピンクの服を着せたキューピーさんを大事そうに持っている、目のクリッとした女の子です。

出会ったのは、著者が近くのスーパーマーケットに行く途中でした。男の子たちがボール蹴りをしているのをぼんやり眺めていると、その女の子がよちよちと歩いてきたのです。

こちらを見つめる口元は、何か言いたそうだったので、「なあに?」と日本語で訊ねましたが、もちろんわかるはずはなく、でも、何か感じたのか、ニコニコと笑ったのです。
著者も笑みを返して見つめ合っていると、道を挟んだ食料品店からイスラムの黒いニカーブを着た女性が出てきて、その子の手を引き、急ぎ足で連れ去りました。

変な男の人に誘拐されるのを警戒したのでしょうか。
でも、著者は別のことを考えていました。
ニカーブについてです。
あの女の子も、成長すると、目以外のすべてを隠すニカーブを身につけるようになります。
宗教的、歴史的な背景があるので、よそ者がどうこう言う資格はないのかもしれませんが、ほんの少し胸が痛んだそうです。

日本もそうですが、世界ではまだまだ男尊女卑の風潮が色濃く残っています。
それが例え女性を守るために始まった風習だとしても、今の時代にそぐわないものは改める必要があるのではないでしょうか。
男女平等が当たり前の世界が一日も早く訪れるのを祈念するばかりです。