第四話:ワイン誕生

9月の晴天の日、ブドウの収穫が始まります。
一年の努力が実を結ぶ時が来たのです。

しかし、いつでも収穫できるわけではありません。
気象条件と生育の状態を慎重に見極めなければならないのです。

先ず、最低10日間は晴天が続かなければなりません。
収穫の途中で雨が降ったら台無しになるからです。

次に、葡萄の成熟度を見極めます。
すべての葡萄の糖度が12度から12.5度で一定するのを待つのです。

その条件がすべて整って初めて収穫が始まります。
総勢82名(社員12名と収穫労働者70名)が夜明けとともに起き、畑へ向かいます。
もちろん、最初のひと房はマダムの手によって摘まれます。
「美しい房が、獲られるべき房です」
マダムの教えによって作業が始まります。

それからは時間の勝負となります。
ベルトコンベヤーで運ばれ、選定され、乾燥し、樽の中に送り込みます。
すると、すぐに第一次発酵が始まります。
葡萄のお産が始まるのです。

それから12~21日経つと、第二次発酵に移行します。
そして、6カ月間、毎日品質をチェックし、問題がなければ、次の樽へ移されます。
ワインに変身した葡萄は、新しい生命を膨らませていくのです。

マダムが使う樽は樫の木でできています。
樫特有の程よいタンニンがワインを最良にするからです。
そのため、樽にひと工夫することを(いと)いません。

新樽が入荷したら、よく洗浄し、更に湯で洗って、塩をひとつまみ、まぶします。
これは、タンニンが一気に出てこないようにするためです。
醸造の責任者は細心の注意を払ってこの作業を行います。

因みに、一般的な生産者は毎年15%くらいの割合で新樽を入れるようですが、ルロワ社ではすべての樽を新樽に入れ替えます。その方が品質を保てるからです。使い古した樽は樫の香りや味を消してしまうので、それを避けるために必ず新樽を用意するのです。

半年間ほど樽で眠らせたワインは瓶に移されます。
畑の土の滋味を膨らませる時間の中に没頭させるためです。
互いの体を寄せ合ってワインは眠ります。
そして、その時が来るのをひたすら待ち続けます。