第三話:月下の葡萄

ブルゴーニュに葡萄の木が根付いたのは、紀元前600年頃と言われています。マルセイユに移民したギリシャ人がこの地に植樹したのです。

しかし、それだけでは葡萄は育ちません。
土地との相性が重要なのです。
その点、ブルゴーニュは葡萄の生育にとって最適な土壌を有していました。
水はけがよく、昼間にたまった熱を夜に放出させる、とても良い土です。
白茶けた、ボロボロとこぼれるような粘土。
そう、石灰岩によってできた土なのです。
その形成は1億5千万年以上も前の白亜紀と言われています。
つまり、地球が育てた特別な土が特別な葡萄を育んでいるのです。

「ワインは宇宙のインスピレーションから生まれる。」

これは、ルロワ社の理念として記されています。

太陽、月、光、雨、空気、土、そのすべてが影響を与えているのです。それは、「この世に存在するあらゆる物質の味を語るものである。」というもう一つの理念が、明確に物語っています。

『夏の夜、月のころはさらなり。土への手当てを急ぎます』

全精力を木々に送っている土をほったらかしにすることはできません。葡萄の葉や実を保護育成する硫黄分を補給してやらなければならないのです。
干したノコギリ草を40リットルの水の中で20分間漬けたものを畑に撒き、土を賦活させます。
じっとしている暇はないのです。

しかし、作業を終えると、楽しいひと時が待っています。
マダムはフォアグラのパテを用意して、よく冷えた白ワインと共にお客様を迎えるのです。
テーブルには庭で咲いていたダリアが活けられています。

さあ、宴の始まりです。