洲二(しゅうじ)さん……」
「『血は水よりも濃し』なんて言うけどさ。ただ結婚して自分の子どもが生まれたからって、それですぐに家族になれるなんてオレは考えてないよ。いろいろ分かり合えなかったり、ぶつかったりすることもあるけど、それでも末永く大切にしていきたいって気持ちになるのが、家族の始まりだから。蒼生くんにとって、オレは父親って感じにはどうしても思えないだろうけど、オレは蒼生くんのこと、大切な子どもだと思ってる。きみには迷惑かもしれないけどね」
 そのとき、なんとなくだけど、母がこのひとと結婚した理由が分かった。
 うわべだけではないかと疑っていた優しさが、今は素直に伝わってくる。
「いえ、ありがとうございます。心配かけてすみませんでした。父さん」
 自然とそんな言葉が口からあふれ出ると。
 キキキッ! と、ワゴン車は急ブレーキをかけて止まった。
「い、今、きみオレのこと――!?」
「それより、ちゃんと前見て走ってくださいよ。危ないな」
 前方車に衝突するかと思った。
「あれ? 聞きまちがいだったか……」
 眉をひそめながら再びハンドルを持つ手に力をこめる洲二(しゅうじ)さんの顔が、以前よりもなんだか頼りがいのある感じに思えた。

 家に帰ると、母さんからは、いったい今までどこに行っていたのかと、やっぱり厳しく問いつめられたけど、洲二(しゅうじ)さんがうまく諫めてくれたので助かった。
 衝動的に家を飛び出したのが後ろめたかったのもあるけど、当の僕自身、あの河川敷がいったいどのあたりにあったのか、はっきりとは思い出せない。
 きららさんとの出会いも、星くずのようにキレイな歌声も、言葉を交わした時間も、抱きしめられたときに感じたぬくもりも。
 すべてはこの夏の暑さが見せた幻だったのではないか、という思いが胸にこみあげてくるけれど。
 すっかり気が抜けてぬるくなった天然水サイダーのペットボトル。
 それに、
 「あれだ――」
 部屋のベランダから見える、夜空に広がる天の川の付近に輝く星。
 アルビレオだ。
 肉眼ではひとつの星にしか見えないけど、望遠鏡で観察すると、そこには確かにふたつの星が寄りそっているらしい。
――もしきみが孤独に押しつぶされそうになったときには、私のこと思い出してよ。アルビレオの片割れのことを。
 離れているけど、ちゃんと側にいる存在。
 おたがいの孤独を分かち合った仲間。
 彼女はやっぱり幻なんかじゃない。
 年はあっという間にとるものだけど、自分の意志で、どこまでも自由に行動できる大人になるまでには、やっぱりずいぶんと時間がかかると思う。
 だけど、もうあきらめないから。
 くじけそうになったときは、夜空を見上げて、自分の夢に向かってがんばっているきみのことを思い出すから。
 だから、また会おう。きららさん。
 いつまでも子どもだね、って呆れられてもいいから。