「私、今日のこと忘れないよ。だから、きみも忘れないでね、孤独を分かち合った仲間がいることを。おたがい、大人になったらまた会おう!」
 と、にこやかに僕に手を振って、あっという間にどこかにいなくなってしまった。
「きららさん――」
 ズルいよ。自分はそんなタイプじゃないって言ってたのに。
 もっと話したいことがいろいろあったのに。
 カムパネルラみたいにあっさり消えちゃうなよ。
 ウソつき……。

 その後の僕はあんまりパッとしなかった。
 あてどなくどこかに行くことはできたけど、そのまま家出なんてする勇気はなく、なによりお金も足りず、仕方なくひとり帰り道をたどっていった。
 出かけるよりも倍の時間をかけて、ようやく自分の住んでる町に着いたとき。
蒼生(あおい)くん!」
 と、ワゴン車に呼び止められた。
洲二(しゅうじ)さん」
 このひとが母の再婚相手。つまり、僕の新しい父だ。
「よかった、見つかって! 心配してたんだぞ。朝家を出たっきり、ずっと帰って来なかったから。携帯にも出ないし、オレも恵さんもきみが事故にでも遭ったんじゃないか、ってずっと気が気じゃなくって……」
 洲二(しゅうじ)さんは、心からホッとしているようだった。
 てっきり𠮟られるかと思ってたのに、洲二(しゅうじ)さんはにこやかな顔つきのまま、
「ほら、助手席乗んなよ。自転車トランクに積んでさ。いっしょに帰ろう」
 と言った。
 クタクタだったので、ついその言葉にしたがってしまった。
 どこまでも遠くに行ってしまいたいって思ってたのに、まだまだとても大人にはなれそうにない自分がどうしようもなく情けなかった。
 洲二(しゅうじ)さんは、今までどこに行ってたのか、とか何をしていたのか、とかそんなことを僕にひとことも尋ねなかった。
 ただ、なにも言わず静かに家まで車を走らせていた。
 それは、僕に対する遠慮なのか、いい父親を演じてみせたいのか、いったいどっちなんだろう。
「あの……ずっと気になってたんですけど」
 僕はゆっくりと口を開く。
 「なに?」
 気さくな様子の洲二(しゅうじ)さんに、僕は尋ねた。
「正直、わずらわしくないですか? 血のつながらない子どもって」
 洲二(しゅうじ)さんの目が一瞬大きく見開かれた。
 だけど、すぐにいつもの穏やかな調子で、
「思ってないよ。そんなこと」
 と返ってきた。
「でも――」
 どうしても疑いの念が晴れない僕に対し、洲二(しゅうじ)さんはニッと笑って。
「信じられない? だけど、夫婦だって血のつながりはないんだよ。それでも、おたがいのことを深く思いやることができる。子どもに対してもそれは同じだよ」