「そっか――」
びっくりした、ただの冗談か。
ホッとしたような、ちょっと悲しいような、胸の奥にかすかな苦みが残る。
「それに、きみがジョバンニならまだしも、私はどう考えてもカムパネルラって雰囲気じゃない。賢くないし、みんなのリーダータイプでもない。だいいち、カムパネルラみたいに誰かから必要とされてるわけでもないし。歌なんて披露しても喜んでくれるひとなんているかどうか分からないもん。夢も恋とおんなじ。いくら強く想っていても、必ずその気持ちが届くわけじゃないんだよね」
と、さびしそうに目をふせた。
「そうかな、さっきのきみの歌、とってもよかったけど」
そう言うと、彼女は
「ホントに?」
と、僕のほうに顔を近づけた。
「う、うん。すごくキレイな声だったから」
正確には声だけじゃないけど……。
「よかった〜! どうもありがとう。なんか報われた気分。私、この場所以外ではなかなか歌えないから。誰かにちゃんと歌を聴いてもらえたのなんてはじめてで」
「そうなの?」
「うん。塾があるから合唱部に入る余裕はないし、動画配信はもちろんのこと、カラオケ行くのだって禁止されてるの。なにかトラブルが起こったらいけないからって」
うちの親、そういうところだけはうるさいんだ、と苦笑したあと、
「ねぇ。私たち、ジョバンニとカムパネルラよりも、アルビレオのほうがしっくりくるかもね」
「アルビレオ?」
僕がキョトンとしていると、彼女は僕の『銀河鉄道の夜』をパッと奪って。
「ほら、ここに出てくるでしょ? アルビレオ観測所。アルビレオって、はくちょう座にあって、黄色い星と青い星が仲良く寄りそうように並んでるの。ちょうど今の私たちみたいじゃない?」
「それって、どういう――」
まいったな、また顔が火照ってきた。
彼女はニコニコと僕のシャツを指さして。
「ほら。ブルーに、私がイエロー。まさにアルビレオカラーだよね」
あ、なんだ。そういう意味……。
まったく、いちいち勘違いしそうになる自分がイヤになる。
「あのね。もしきみが孤独に押しつぶされそうになったときには、私のこと思い出してよ」
「え?」
「アルビレオの片割れのことを。私、周りからは反対されてるけど、がんばっていつかきみのもとにきちんと歌を届けられるような歌手になるから。だからきみも、これからも元気でいてほしいんだ。ワガママなお願いかもしれないけど、大人になったきみにまた会いたいから」
川面が太陽に照らされてキラキラと宝石のように輝く。
あたたかくてやさしい光が僕たちにも降り注いでいる。
「うん……」
大人になった僕……そんな日がほんとうに来るのか、自分ではとても想像がつかない。
でも、歌手になった彼女の歌声が聴ける日を想像すると、今までは来なければいいのにと思ってた明日のことが、少しだけ待ち遠しくなった。
「そうだ。まだ名前を教えてなかったね。私、きらら。きみは?」
「蒼生。廣川……じゃなくて、西森 蒼生」
新しい苗字って未だにしっくりこない。いつか慣れる日が来るのかな。
きららさんは、陽だまりみたいなほほえみを浮かべると、
「今日はありがとう、蒼生。ほんとに偶然だったけど、きみに出会えてうれしかった。おかげで、孤独な暗闇から少しだけぬけ出せたみたい」
と、僕のことをそっと抱きしめた。
「わ……」
レモンみたいにさわやかな風が全身を吹き抜ける。
真っ赤になってどうしていいか分からなくなっている僕から、きららさんはパッと手を放して。
びっくりした、ただの冗談か。
ホッとしたような、ちょっと悲しいような、胸の奥にかすかな苦みが残る。
「それに、きみがジョバンニならまだしも、私はどう考えてもカムパネルラって雰囲気じゃない。賢くないし、みんなのリーダータイプでもない。だいいち、カムパネルラみたいに誰かから必要とされてるわけでもないし。歌なんて披露しても喜んでくれるひとなんているかどうか分からないもん。夢も恋とおんなじ。いくら強く想っていても、必ずその気持ちが届くわけじゃないんだよね」
と、さびしそうに目をふせた。
「そうかな、さっきのきみの歌、とってもよかったけど」
そう言うと、彼女は
「ホントに?」
と、僕のほうに顔を近づけた。
「う、うん。すごくキレイな声だったから」
正確には声だけじゃないけど……。
「よかった〜! どうもありがとう。なんか報われた気分。私、この場所以外ではなかなか歌えないから。誰かにちゃんと歌を聴いてもらえたのなんてはじめてで」
「そうなの?」
「うん。塾があるから合唱部に入る余裕はないし、動画配信はもちろんのこと、カラオケ行くのだって禁止されてるの。なにかトラブルが起こったらいけないからって」
うちの親、そういうところだけはうるさいんだ、と苦笑したあと、
「ねぇ。私たち、ジョバンニとカムパネルラよりも、アルビレオのほうがしっくりくるかもね」
「アルビレオ?」
僕がキョトンとしていると、彼女は僕の『銀河鉄道の夜』をパッと奪って。
「ほら、ここに出てくるでしょ? アルビレオ観測所。アルビレオって、はくちょう座にあって、黄色い星と青い星が仲良く寄りそうように並んでるの。ちょうど今の私たちみたいじゃない?」
「それって、どういう――」
まいったな、また顔が火照ってきた。
彼女はニコニコと僕のシャツを指さして。
「ほら。ブルーに、私がイエロー。まさにアルビレオカラーだよね」
あ、なんだ。そういう意味……。
まったく、いちいち勘違いしそうになる自分がイヤになる。
「あのね。もしきみが孤独に押しつぶされそうになったときには、私のこと思い出してよ」
「え?」
「アルビレオの片割れのことを。私、周りからは反対されてるけど、がんばっていつかきみのもとにきちんと歌を届けられるような歌手になるから。だからきみも、これからも元気でいてほしいんだ。ワガママなお願いかもしれないけど、大人になったきみにまた会いたいから」
川面が太陽に照らされてキラキラと宝石のように輝く。
あたたかくてやさしい光が僕たちにも降り注いでいる。
「うん……」
大人になった僕……そんな日がほんとうに来るのか、自分ではとても想像がつかない。
でも、歌手になった彼女の歌声が聴ける日を想像すると、今までは来なければいいのにと思ってた明日のことが、少しだけ待ち遠しくなった。
「そうだ。まだ名前を教えてなかったね。私、きらら。きみは?」
「蒼生。廣川……じゃなくて、西森 蒼生」
新しい苗字って未だにしっくりこない。いつか慣れる日が来るのかな。
きららさんは、陽だまりみたいなほほえみを浮かべると、
「今日はありがとう、蒼生。ほんとに偶然だったけど、きみに出会えてうれしかった。おかげで、孤独な暗闇から少しだけぬけ出せたみたい」
と、僕のことをそっと抱きしめた。
「わ……」
レモンみたいにさわやかな風が全身を吹き抜ける。
真っ赤になってどうしていいか分からなくなっている僕から、きららさんはパッと手を放して。