「私、来年大学受験でね。今、受験勉強真っただなかで。だけど、正直進路に迷ってて。私は音楽の勉強がしたくて、都会の大学に行きたいってずっと言ってるんだけど、両親には猛反対されてて」
「そうなんだ……」
「うちの両親、私が小さいころから勉強しろの一点張りで。ほめられたり、優しくしてもらえるのはテストでいい点取ったときだけ。でも他は全然興味ないの。運動会で1位とったときも喜んでもらえなかった。誰かに喜んでもらうためにがんばってたわけじゃないけど、喜びや悲しみを分かち合える人がいないのってさびしいよね。歌に出会ったのはそんなときだったんだ」
 ネット動画やラジオから流れてくる曲に、励まされたり、心の傷を癒してもらったり。そのうちに、自分でも歌ったり、曲を書いたりするようになったのだという。
「はじめて自分のやりたいことを見つけたの。でも、いざこの道に進みたいって言ったら、親にも先生にもそんなの将来のためにならないとか、就職の役に立たないとかなんとか言われて。音楽の道に進みたいって話してたのが、いつの間にか地元の医療系の大学受けろって話にすり替えられちゃって」
 彼女の横顔に切なさがよぎる。
「もちろん、想像以上に厳しい道だってことは分かってる。だけど、おかしいよね。世の中、夢ややりたいことを探そうなんて言ってるくせに、結局は大人の望む道を歩かせたがるんだよね。だったら、はじめから自分で探そうなんて言わなきゃいいのに」
 彼女の気持ちが痛いほどよく分かった。
 僕らは、いつだってそう簡単に自分で自分の道を決めることができない。
 将来を考えろ、早く自立しろなんて周りから急き立てられるわりに、決めたら決めたで、まだ子どものくせに、とか考えが未熟すぎるとかと言われて蓋をされてしまう。
 早く大人になってほしいのか、ずっと子どものままでいてほしいのか、いったいどっちなんだろう。
 まるで箱に閉じこめられた植物みたいに窮屈で、とてもまっすぐには成長できそうにない。
 心と身体がバラバラになりそうで、ただ苦しさだけが続くんだ。
「いっそのことちがう世界に行けたらなって思うよ。それこそ銀河鉄道に乗って宇宙の果てまで行けたらステキだろうな。銀河系をバックにたくさんのお客さんの前で歌を披露することができたら。今抱えている悩みや苦しみも、シュワシュワって泡みたいに消えちゃうよね」
 そして、彼女は僕のほうに向き直ると、
「ねぇ、ふたりでいっしょに行っちゃおうか? 私たちのことなんて誰も知らないところへ。ジョバンニとカムパネルラみたいに」
 と言った。
「え……?」
 ドクンと心臓が高鳴る。
 サイダーで気を落ち着かせようとするけど、全身を駆けめぐる熱はなかなかおさまらない。
 ふたりでいっしょに――。
 どう答えていいか迷っていると、
「なんてね、冗談だよ」
 と、彼女は笑ってみせた。