次に出会ったのは、もう12月だった。
 高野さんはねずみ色のコートを羽織って、ブランド品みたいなマフラーをつけている。
「やあ!」
 いつもの仕草で、いつもの挨拶をしてくれた。
 今日も、いつものように別れていく。
 
 新しいページにはたくさんの内容が書き込まれていた。それはもはや、しっかりとした手紙のようだった。

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星野くんは、覚えていますでしょうか。

足の怪我をしたということなら、もしかしたらと思って。
私、きみに会っているかもしれません。
 ......
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 ......急に胸騒ぎがし出した。読む手を止めたいけれど、緊張のままページをめくる。

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私には小さな妹がいました。
幼少の頃から大きな病気を抱えていて、ほとんどを病院のベッドで生活していたのです。
ある日、妹が私に教えてくれました。
「お兄ちゃんとお庭で会ったんだよ。お池を指さしてたら、"あれは鯉だよ"って教えてくれたの」
「お兄ちゃん?」
彼女が振り返って指さした姿が、きみなのかもって。
 ......
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 思い出した。それはたった一日の小さな出来事。

 ・・・

「......元気な子だね。でもはしゃいだら危ないからね」
 ある初夏の日、病院の庭先で小さな女の子にぶつかった。たしかこうやって答えたんだ。
 明るくていい子だから、ふと話し相手にいいなと思って少し散歩に付き合ってあげた。すると、池に夢中になった彼女があれはなあに、と指さしたんだ。
「あれはお魚だよ、鯉っていうんだよ」
「そうなんだね、わたしと同じ名前だ!」
 そこで、彼女を呼ぶ声がしたから別れていった。

 ・・・

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妹の名前は、"こい"っていいます。
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 思わず声を失った。手から落ちていく本は床にぶつかってページが閉じられていく。そして裏表紙が目に映った。
 再び目にした"こい"という文字に疑問が浮かび上がる。
 私のじゃない大切なものは、妹のもの。
 
 この本は形見じゃないか。手に取って置きたいんじゃないか。
 そんな大切なものになにを書かせていたんだろう。
 
 彼女の真意を聞きたくなった。
 ......次の水曜日はクリスマスだ。