朝陽がのぼり、カーテンの隙間から淡い光が漏れだした。
最近はそれを見ると、ああやっと朝が来たんだなと東雲桜花は実感していた。
長い夜が明けたのだ、と。
その後に時計を見るとやはり家を出る準備を始めなきゃいけない時間だったので、だいぶ体内時計がしっかりしてきたなと内心桜花は思う。
うーんと大きく体を伸ばすのは、もう日課となっていた。
その後大きな姿見に目を向けると、真剣な様子で鏡と睨めっこしていた姉の静歌の姿が目に入る。
これも、いつもの風景だ。
線の細い後ろ姿。
しなやかで艶のある、ゆるくパーマの当てられた背中までの綺麗な亜麻色の髪。
背中だけを見てもわかる、真剣な静歌の様子。
これも毎朝変わることのない光景だ。
静歌はふわふわで手触りのよさそうな、ジェラートピケの部屋着に身を包んでいる。
桜花もそれを着たことがあったが、やっぱり着心地がほかの服とは全然違う。
けれどまあまあいい値段がするから、桜花のしけたお小遣いではなかなか買うことができなかった。
それを平然と着ている静歌を恨めしく思ったことが、以前はあった。
そのときはあまりにも桜花が羨ましがるから、静歌が色違いのお揃いを自分のお小遣いをはたいて買ってくれたのだ。
桜花が気に入ってパジャマにしていたそれは毛玉だらけになってしまったのでもうあまり着なくなってしまったが、静歌はいまでもジェラートピケをいたく気に入っており、部屋着に始まり小物類まで、いまでは目につくものの多くがそのブランドだ。
湯水のごとく増えていくそれらのアイテムは、部屋の至る所に散りばめられている。
好きに使っていいと静歌が言うから、時々小物を借りることがある。
自分で買わずに良いものを使えるのだから二人暮らしも悪くないと、桜花は近頃そう思い始めていた。
「桜花、今日の講義は?」
目線は鏡から逸らさないまま、静歌が桜花に言った。
卓上ミラーを覗き込み真剣な目でアイラインを引いているので、鏡越しですら桜花と静歌の視線が交わることはない。
それもいつものことだから、桜花も静歌に視線を合わせることはあえてしない。
「今日は十五時過ぎには帰ってくるよ」
桜花は今日一日の予定を思い浮かべながら言う。
私立の有名大学に合格し、入学してから早くも二年目に突入していた。
両親とは離れて暮らしているので、姉の静歌に帰宅の時間を伝えるのは朝の流れのひとつだった。
「そっか。わたし動画撮ってるかもしれないから、帰ってくるときに一応音を立てないように気を付けてね」
「生配信するんだったっけ?」
「その予定。視聴者さんの希望が多くてさ」
そう言う静歌の表情はさっきまでとはなんら変わりないが、言葉の端々から照れくささと誇らしさが滲み出ていた。
静歌の職業、と言ってもいいのだろうか。
彼女はメイク動画を上げている配信者だ。
とは言ってもバイトはしており、動画一本でやっていけるほどの安定した稼ぎはない。
生配信の時間が微妙な時間帯なのも、夕方から夜にかけてバイトを入れているからだ。
静歌が動画投稿を始めたのは去年の夏頃だった。
流行っていた地雷系メイクのビフォーアフターをショート動画で上げたら、話題になったのだ。
流行りの音楽に合わせてリズミカルに施されていくメイクに、「この子だれ?」「めっちゃかわいくね?」「地雷系嫌いだったけど、この子のは見れる」など、肯定的なコメントがたくさんついていた。
それを機に、静歌はメイク動画配信者として正式にデビューした。
まばらに上げていた動画は、今や三日に一回という頻度でアップロードしており、一九九〇年代に流行ったヤマンバメイクや、沼らせメイク、量産型、時には芸能人の顔に見えるような変装メイクも上げたりする。
最近ではそこそこ有名になり収益化に成功して、生活に潤いが出てきたようだった。
部屋に散らばるジェラートピケを始めとするブランド品が、それを表わしている。
以前はもっと財布の紐が固く、必要なものは買うが無駄遣いはしない、静歌はそういう人だった。
ひとつひとつのものを大事に扱っていた気がするのにお金は人を狂わせるのか、動画配信で稼げるようになってからは、静歌の金遣いは荒くなっていた。
お気に入りのジェラートピケの新作も、無造作に置いてあるマークジェイコブスのバッグも、脱ぎ散らかされたジミーチュウのハイヒールも、大事にされている形跡がない。
たまに借りるからと理由をつけて、それらを丁寧に片付けるのが桜花の生活の一部だった。
辺りを片付けた際に目に留まったルイヴィトンの大きめのバッグに荷物を移し替え、ゆっくりと準備をしていた桜花もようやく大学へ向かう用意が整った。
「じゃあ、行ってくるね」
桜花は小さく、部屋へ向かって声を投げた。
静歌からの返事はないままだった。
「おはよ、東雲さん」
「おはよう。安藤くん」
「はよー、東雲」
「おはよう、藤原くん」
誰かとすれ違うたびに声をかけられる桜花は、そのひとつひとつに笑顔で応対していた。
桜花とすれ違うときに、ある男子は「いまの子、めっちゃいい匂いした」、ある女子は「あの子が東雲さんだよね?」と、羨望に似た眼差しを向けた。
その声を受けて、桜花は内心思う。
(——今日のわたしも、いい感じ)
歩くたびに背中で揺れるふわふわの髪が、ひと噴きされたサボンの香水をまとって、桜花をワンランク上の女に仕立て上げていた。
なんの変哲もないただのコンクリートの道が、桜花がそこを通るだけで即席のランウェイに早変わりしたかのようだった。
桜花はたくさんの視線を集めながら満足そうに、二限が行われる大講義室へと向かった。
講義開始四十分前とあって、室内にはまだ人がまばらだった。
大講義室の席は、教壇を中心にお鉢状に広くなっている作りだ。
教壇の真横と、講義室の前と後ろを区切るかのように作られたひとつの通路の片側に、出入りする扉が設けられている。
通路の後ろ側の席は黒板が見やすいよう階段状になっており、通路に近い後ろ側の真ん中の席が桜花のお気に入りだった。
早めの行動を心掛けている桜花は、その席がまだ空いていることを確認していつも通り荷物を置く。
教壇からは少し目立つが、講義室の横にある扉から一直線に伸びるこの通路を、多くの生徒が通る。
つまり、桜花の目の前をたくさんの生徒が歩いていくというわけだ。
それを見越したうえで、桜花はこの席を好んで利用していた。
着席し、バッグに入れていたスクエア型の手鏡を取り出して、身だしなみが乱れていないかもう一度チェックする。
(——うん、やっぱり今日もいい感じだ)
プチプラで揃えたメイク道具ではあるが、下地とファンデーションだけはデパコスのいいものを奮発して買ったので、メイクのりがいい。
そのおかげか、今日は普段よりも心なしか肌艶がいいように思えた。
(——お金をかけた分だけ気分が上がるし、周りの反応も違う。やっぱりお金の使いどころってこういうところだよね)
桜花は満足そうに頬をひと撫でした。
講義開始の十五分前くらいになると、あっという間に室内が人でいっぱいになる。
ぞろぞろと扉から人が雪崩のように入ってくるが、桜花は気にも留めない様子で机上にタブレット端末とルーズリーフ、シャーペンを並べた。
「おはよ、桜花」
「おはよう」
黒い肩掛けバッグを持ち桜花の隣に腰を下ろしたのは、同学部で唯一の女友達、斎藤美樹。
美樹はボーイッシュな金髪のショートヘアがよく似合う、高身長のスレンダーな美人だ。
身に着けているものはどれもノーブランドだがセンスが良く、いつも彼女自身に似合う服装や小物を使っている。
美人なことを鼻にかけることも、だからといってあえて卑下するような物言いもしない、さっぱりとした性格だ。
私立の理系は女子生徒が少なく、その中でも気が合う友人を見つけるとなると至難の業だが、入学式の席順がたまたま隣だったことから桜花と美樹は意気投合したのだ。
「いやあ、桜花がいつも早いから席取っててくれてほんと助かる!」
「この講義、人気だもんね」
「ほんとほんと。ちょっと遅れただけですぐ座れなくなるしさ」
喋りながら美樹も桜花と同じように、講義の準備を始めていく。
その間にも、目の前の通路を歩く何人もの生徒が桜花に声をかけていった。
その様子を見て、美樹が感心したようにため息交じりで口を開く。
「はー……、相変わらず、桜花はすごいね」
「なにが?」
桜花のすました様子に口を尖らせながら、美樹はもう!と小さく頬を膨らませる。
「わかってるくせに、桜花の人気!」
ぷうと膨らませた頬、つんと尖らせた唇。
見る人が見ればぶりっ子と言われそうな仕草だが、美樹がやると嫌味がない。
そう思わせる方がすごいのでは、と内心桜花は思うが当たり障りなく「そんなことないよ」と微笑んだ。
桜花のその笑みに美樹はまた「はー……」とため息を吐いていた。
「東雲、斎藤、おはよ」
そうこうしているうちに講義開始も間近に迫り、人の波を縫って桜花の後ろにとっておいた席にいつも通りといったふうで、ふたりの男子学生が腰かける。
「いつもありがとな、東雲」
爽やかな黒い短髪が似合う、まさに好青年といった印象の橘律が、桜花に言う。
「ううん、全然大丈夫」
申し訳なさそうな顔をする律に、桜花はにこやかな笑みを浮かべた。
律の隣に無言で席につきスマホをいじっているのは、津田諒。
茶色い髪を遊ばせ、モノトーンで綺麗に纏められている服装は諒によく似合っている。
系統の違う二人だが橘律と津田諒は腐れ縁だと、入学した時に桜花は聞いていた。
「ちょっと、あんたもお礼くらい言ったらどうなの?」
桜花と律のやり取りを見ていた美樹が、後ろを振り返りながら呆れた声を出した。
諒のふてぶてしい態度を見ても、慣れたものだというように律はやれやれと静観している。
律に代わって小言を言った美樹に諒はイラついたようで「うざ。おかんかよ」とぶつくさ文句を言っていた。
諒の棘のある言葉はいつものことで、美樹と小さな言い合いが起こるのもいつものこと。
桜花はそれを微笑ましく見つめていた。
東雲桜花、斎藤美樹、いましがた席に着いたばかりの橘律と津田諒。
一見するとちぐはぐにも見えるメンバーだが、入学当初から行動を共にしているグループだ。
「そういえば、さっきから聞こうと思ってたんだけどさ」
いまだざわめきがやまない教室内で、美樹が唐突に口を開いた。
桜花は小首を傾げて、美樹の言葉の続きを待った。
「これって、ヴィトンだよね?」
言いながら美樹が指さしたのは、机の端に置いたままの桜花のバッグだった。
「……ああ、これ? うん、実はヴィトンだよ」
なんでもないことかのように桜花は言う。
「いかにも、なブランド品持ってるの、珍しいね」
美樹がまじまじと見つめるそのバッグは、ブランドに詳しくない人でもわかる、ヴィトンで人気を博しているダミエ。
特徴的なこげ茶色とベージュのチェック柄だったため、普段ブランド品を身に付けない美樹にもわかったのだろう。
同じようにブランド品にこだわりを持たないところが気の合う部分のひとつでもあったので、美樹は桜花に少しだけ不満げな視線を投げた。
それを感じ取った桜花は、気まずそうにおずおずと口を開く。
「……実は、お父さんが入学祝いにって買ってくれたものなんだ。使うのがもったいなくてずっと大事にしまってたんだけど、使わないのももったいないなと思って」
「そうだったんだ。せっかくだし、使わないのもたしかにもったいないよね」
桜花の言葉を聞いた美樹はぱっと表情を変え、明るく言った。
美樹は良くも悪くも正直だ。
裏も表もないことは明白で、だからこそ付き合いやすくもあり、付き合いにくいと感じる部分もあった。
桜花が気付かれないように小さくため息を吐こうとしたそのとき、机の上に置いたままだったヴィトンのバッグが、床に落ちた。
「あ……っ」
手を伸ばしたが、一歩届かなかった。
目の前を通ろうとした男子生徒の服が鞄の取っ手に引っ掛かり、鞄が落ちたのだ。
どさっと物が落ちた音と桜花の小さな声が、男子生徒に聞こえたのだろう。
「あ、わり」
振り返って地面に落ちている鞄を見たその男子生徒は、悪びれない様子でたった一言謝罪を述べた。
桜花が椅子から降りて拾おうとする前に、鞄をひょいと乱雑に拾い上げ、桜花の目の前に置き直す。
「ありがとうございます……」
そう言って、桜花は男子生徒に視線を向けた。
色白で、パンツにスカートを合わせた奇抜なファッション。
目の色は青く輝き、睫毛までも髪と同じブロンドで小柄な男だった。
一瞬、はっきりと目が合った。
男は驚いた表情をした気がしたが、すぐに視線を逸らされたので桜花はあまり気に留めなかった。
去っていくその男子生徒の後ろ姿をなんとなく目で追っていると、前の方の空いている席にさっさと座ったようで、桜花はやっとその男から視線を逸らした。
鞄に目立つ傷がついていないかだけ確認していると、隣から机をコツコツと鳴らす音が聞こえてくる。
爪で机を鳴らすのは、苛立った時の美樹の癖だ。
「桜花の大事なもの落としておいて、なにあれ」
いつもよりトーンの低い声に美樹の方へ顔を向けると、案の定美樹の眉間には深いしわが刻まれている。
美人なのにあまり友達がいないのは、こういう部分が原因だろうと桜花は心の中で思った。
「大丈夫だよ。ぶつかるようなところに置いておいたわたしも悪いし」
「桜花って、ほんっとうにいい子だよね!」
「……そんなことないよ」
「そんなことあるって! 美人で人当たりも良くて、入学祝いにブランドバッグ買ってくれるお父さんがいて。前世でどんな徳積んだら、こんな人生イージーモードになるんだって感じ」
頬杖をつきながら、美樹がむくれて言った。
「桜花って、恵まれてるよね」
続けられた美樹の言葉に、桜花は唇の端を上げて小さく笑った。
ガチャっとドアノブを回し、桜花は自室に入る。
大学の講義を終え帰宅したが、今日はいつにも増して疲労感が大きかった。
西日が差し込むベッドの上へとバッグを軽く投げ、自身も同じように隣へ倒れ込むようにして寝転んだ。
(——これが本当に両親からのプレゼントだったら、どれだけよかったんだろう)
目の前にあるヴィトンのダミエを前に、桜花は唇をきつく噛んだ。
入学祝いにプレゼントを買ってくれる両親など、桜花にはいない。
いるのは、最近動画投稿を頑張って稼ぎを増やしている、優しい姉の静歌だけだ。
このヴィトンのバッグもプレゼントなんかじゃなく、静歌が購入したものでそれを借りているだけ。
本当に両親からのプレゼントだったなら、鞄を落とされた時点でかなりのショックを受けただろうし、今のように乱暴に鞄を投げたりもしなかっただろう。
桜花はさらにきつく、唇を噛みしめた。
両親は桜花にはとりわけ厳しく、姉の静歌には甘かった。
静歌が望んだものは買い与え、桜花の望みはなにひとつとして叶うことはなかった。
虐げられる日々だった。
そんな両親に見切りをつけて、大学は地元を遠く離れた場所に決めたのだ。
もう一度、人生をやり直す。
そんなつもりで。
流行りを取り入れたメイク、ブランドに固執しないが洗練された身なり、人当たりの良い笑顔。
入学前に研究した甲斐あって、桜花は大学構内で人気を博している。
有名私立大学に入学できるほどの頭脳も持ち合わせ、加えて家族にも恵まれているとくれば、華々しい人生と言う他ない。
大学に入学してからの桜花の人生は、まるで蛹から蝶になるように打って変わった。
非の打ち所のない桜花の人生を、きっと誰もが羨むだろう。
「……恵まれてる、か」
大学で美樹に言われた言葉を、桜花は何度も頭の中で反芻した。
必死で作り上げた理想の自分をその一言で纏められるといい気はしないが、すべて桜花にとって大事なステータスだ。
たとえ、そこに”嘘“が紛れていたとしても。
(——この生活を守り切ってみせる)
桜花は人知れず決意を胸に秘め、重くなってきた瞼をそのままとじた。
次に桜花が目を開けたときには、外はすっかり暗くなっていた。
夜もだいぶ更けてきたようだ。
カーテンの隙間から空を見上げると、大きな月が顔を覗かせている。
今夜は満月だ。
大きな月は綺麗というよりも、どこか不気味な感じだ。
なにか悪いことが起こりそうな、不安感を煽るような月だった。
「……化粧、落とさないで寝ちゃった」
寝ぼけ眼で、桜花は起き上がる。
(——そういえば、生配信の反響はどうだろう)
スタンドミラーを時折見て化粧を落としながら桜花はパソコンの画面を立ち上げ、静歌が投稿している『seeチャンネル』をおもむろに開く。
今日の配信タイトルは、『see流☆トレンドくすみメイク最初から最後まで見せちゃいます!』
既に動画の再生回数は五万を超えており、視聴者の反応も上々のようだった。
桜花は動画タイトルをクリックして、視聴をはじめた。
いつものショート動画とは違い、静歌は使用した化粧品紹介もきちんとしているようだ。
実際使用したメイク道具を右手に持ち、左手で背景を隠すようにしてカメラ前へ寄せるようにアップで撮っている場面もある。
「——今日の配信、いい感じじゃない?」
いつの間にか目を覚ましていたらしい静歌が、動画を見ている桜花に向かってそう言った。
「うん、いい感じだと思う」
「だよね? わたしもそう思うんだ!」
パソコンの明かりだけが灯る部屋の中でくすくすと笑いながら話す様子は、修学旅行の夜に話す恋バナのようなむず痒さがあった。
「コメントもいっぱいついてるね」
口角が思わず上がってしまうほどの視聴者からの好反応に、心が躍るようだった。
桜花は動画を流し見しながら、コメント欄をスクロールさせていった。
『めっちゃ参考になります!』『明日はこれ参考にくすみメイクしよー』『seeちゃん、どんなメイクも似合っててかわいい!』と、肯定的なコメントが多く寄せられていた。
中には否定的なコメントもあったが気にせずどんどんスクロールしていって、おおかたのコメントを読み終わった頃だろうか。
「なに、これ」
ひとつのコメントを前に手を止めた桜花が声を上げた。
——ほんとのおまえを知っている——
変なコメントがつくことはたまにある。
それはどんな人にも起こりえることで、特段気にする必要はないはずだった。
そうでなければ動画投稿を生業にすることなんてできない。
だが、このコメントにはなぜか胸騒ぎを覚えた。
綺麗だが不気味な、あの満月のせいかもしれない。
「……なんか、気持ち悪いよね。けど、気にしないようにしよう」
静歌に気を遣った桜花はさっとページを閉じ、同じように強張った表情の静歌に「もう寝よう」と促した。
カーテンの隙間から見えた月は、やっぱり不気味だった。