自分らしい、とはなんだろうか。
 それはきっと、一言でなんて言い表せない。

 だが、他人を真似て過ごす日々は幸せなど運んでこないとかつての少女は思い知った。
 誰にでも、隠していること、偽装していること、嘘のひとつやふたつあるだろう。
 それが悪いとは言えないが、良いとも言えないことだけはもうわかっていた。

 世界の中心は、いつだって自分だった。
 一番苦しくて不幸なのは自分だと疑いもしなかった。

 だが、かつての少女は気付いたのだ。

 誰もが何かを隠して生きている。
 何も抱えていない人など存在しないのだ、と。

 あの日殺した自分自身を、見ていてくれた人がいる。
 何も持たないと思っていた自分を、羨ましいと思う人がいる。
 そのとき初めて、自分は何かを持っていたことを知ったのだ。

 あの時の少女は、いまはもうふたりじゃなく、たったひとりだ。
 だが、あの時感じていた不安はもうどこにも持っていなかった。

 ありのままの自分を見ていてくれた人がいることを、少女はずっと忘れないだろう。

 ひとりでも何にでもなれるし、どこへだっていける。
 ほんとの自分に気付いたから——。



                   【END】