翌日の昼前、弦はクレモナ行きの電車に乗っていた。膝の上には大きな紙袋があり、中にはウェスタが作ったパンが入っていた。チャバッタ、フォカッチャ、グリッシーニ、そして、パニーノ。パニーノは何種類もあった。アーティチョークとアンチョビを挟んだもの。薄切りの豚肉ソーセージを挟んだもの、トリッパとミニトマトと玉ねぎとイタリアンパセリを挟んだもの、それに、トリュフクリームとフォアグラを挟んだものやキャビアを挟んだものまであった。朝早くから作ってくれた特別なプレゼントだと思うと泣きそうになり、勿体なくて食べられなくなった。紙袋に向かって何度も頭を下げた。
 それからしばらくの間紙袋を見つめていたが、溢れる想いを抑えられなくなって名前を呟いた。何度も呟いた。しかしそれはパンを作ってくれた人のものではなかった。