「あ~、お腹いっぱい」
 空になった皿とボトルを見ながらフローラがお腹を擦ると、「最後のパニーノはデザート感覚だから、もう甘いものはいらないでしょ」とウェスタは満足したような声を出した。しかし、フローラは瞬時に首を横に振った。
「甘いものは別腹よ」
 台所から四角い缶を持ってきてウェスタの目の前で蓋を開けると、「アマレッティだ」と声を上げて赤い模様の包みを?(む)いて口に入れた。するとサクサクッという音がした。
「アーモンドパウダーの優しい苦味が大好きなの」
 今度は青い模様の包みを手にとって口に入れると、「カテリーナがこれをフランスに持って行かなかったらマカロンは生まれていなかったかもしれないわね」と蘊蓄を披露した。
「そう。その通り」
 それは『メディチ』にも書かれてあり、1533年にフランス王アンリ2世の元に嫁いだカテリーナがアマレッティのレシピを持ち込んだことからそれがマカロンに進化したということを昨日確認したばかりだった。
「フランスはメディチ家に感謝しないとね」
 鼻をツンと上に向けたフローラは、大好きなダニエラ・ビアンキを真似るように笑った。