ウォール・ストリートに背を向けた弦の足は何故かグラウンド・ゼロに向かっていた。何かに背中を押されるように勝手に足が動いているようだった。

 しばらく歩くと慰霊碑が見えた。今日は前回来た時よりもはるかに多くの人が訪れていたし、誰もが真剣に祈りを捧げていたので、アメリカ人にとって特別な日なのかもしれないと思い至った。日本でいう月命日なのだ。慌てて手を合わせて頭を垂れたが、本当は911メモリアルミュージアムに入って中で手を合わせたかった、しかし、入場料の持ち合わせがなかった。例えあったとしても26ドルを払うことはできない。来月から仕送りを減らされるのだ。出費は必要最低限にしなければならない。仕方なく入口に向かって再度手を合わせて頭を下げた。