秋が訪れた。女のお腹には子が宿っていた。それを知った男は猟に精を出した。何日も帰らない日があったが、帰ってきた時には必ず獲物を手にしていた。それでも男並みに食べる女の食欲を満たすために男はまた狩りに出かけた。一人になった女は食べ物を探しに草原へ向かったが、その途中であることに気がついた。何やら芽が出ているのだ。それが点々と続いていた。なんだろうと思ってそれを見ていたが、お腹が鳴って我に返り、食料を探すために草原の中に分け入った。

 年が明けた。女のお腹はかなり大きくなった。出産が近いことを悟った女がそれを告げると、男はかいがいしく世話をするようになった。女は幸せな気持ちで臨月を迎えた。

 早春に子供が生まれた。かわいい男の子だった。元気な子でお乳をよく飲んだ。女はお乳を出すためによく食べた。その食欲を満たすために男は狩りに精を出し、持ち帰った獲物は真っ先に女に与えた。それが嬉しかった。だから乳飲み子にかかりっきりになることなく男に尽くした。男はそれに気を良くして更に狩りに精を出した。

 初夏になった。その日も男は狩りに出かけていた。赤子を抱いた女が食べ物を探しに草原に向かうと、道すがら草が伸びて、その先に穂が付いていることに気がついた。それは前の年に見た穂と同じで、それが点々と続いていた。住まいと草原を結ぶように草が生えて穂を付けていた。それを見ているうちに気がついた。これは自分たちが住まいに持ち帰る時にこぼした実が芽を吹いて、大きくなり、穂を付けたのだと。そして、あの実は食べられるものであると同時に育てることができるものだと。

 収穫の時を迎えた。女と男は草原の麦の実を大量に持ち帰り、石で潰して食べた。しかし全部は食べず、残した実を住まいの裏に撒いて足の裏で踏み付けた。

 また年が明けた。住まいの裏では麦が芽を出していた。女はヨチヨチ歩きの幼子の世話をしながらその成長を楽しみに見守った。そして実りの時を待ち続けた。

 好天に恵まれた春が過ぎ、待ちに待った初夏が訪れた。住まいの裏には数多くの麦が穂を付けていた。それを見せると、男は大喜びして飛び上がった。もう草原との間を何度も行き来する必要がなくなったからだ。これほど嬉しいことはなかった。女の知恵に恐れ入った男は更に女に優しくなった。すると、女の腹に新たな命が芽生えた。その後も次々と新しい命を授かり、その命を養うために更に多くの麦の実を撒いた。

 大家族になった住まいの周りは見渡す限り麦が生い茂るようになり、男は狩りをする傍ら種撒きや収穫に精を出すと共に子育てを手伝うようになった。女はそれが嬉しくて益々男に尽くした。その結果、女の腹にはまた新たな命が芽生えた。しかしこの家族が食料の心配をすることはなかった。住まいの周りの見渡す限りの土地に麦が生育していたからだ。実りの季節になると、女と男は多くの子供と共に麦の実を収穫した。そして、住まいの一番大事なところに黄金の穂を(まつ)り、来年も命の恵みを授かりますようにと家族全員で祈りを捧げた。