翌日。
春ちゃんにお願いされた通り、俺は昨日と同じ時間、同じ場所で読書をしていた。
そういえばイラストでは男の傍には飲料が置かれていたっけ。
俺は何となくそれを真似してサイドに飲み物を置いてみる。
片足を伸ばし、左手で本を持つ。
うん。どこからどう見てもイラストの男子そのものだ。
「…………」
「…………」
俺は本に視線を移しているのだが、どうしても本以上に気になるものが存在していた。
俺の隣でじっとこちらを見つめてくる『彼女』の存在だ。
「…………」
「…………」
うん。限界だ。
この状況で読書を続けられるほど俺の神経は図太くない。
「……春ちゃん。どうして無言でこっちを見つめ続けてるの?」
「冬くん、や~っと気づいてくれたね」
「いや、10分前から隣に座られた時点で気づいていたけど」
水月春香さん。
彼女は突然俺の横にやってきて、挨拶もせずに読書をしている俺の目をただじっと見つめていた。
どうして言葉をかけてこないのか疑問だったが、春ちゃんには春ちゃんの深い考えがあるのだろうと思い、俺も無言を貫いていた。
しかし、そのにらめっこは長くは続かず、ついに俺の方からギブアップをしてしまったのだった。
「このイラストってさ。二人の間に会話は発生していないように見えなくない?」
春ちゃんが例のイラストを俺に見せてくる。
言われてみればその通りだ。
イラストの男女は口が開いていない。仲の良い男女が会話のない空気を楽しんでいるように見えた。
「あっ、だから話しかけてこなかったんですね。会話の無い空気感を楽しんでいたんだ」
「そのつもりだったけどさ、正直1分で飽きたよ。、私、『会話の無い男女の空気感』ってやつを楽しめない人種だったみたい」
「あらら」
「正直『早く話しかけてこいこのヤリチンが』ってずっと思いながらキミを見ていたよ」
「美女がそんな汚い言葉を使わないでください!」
「ヤリチンなんでしょ?」
「違いますよ! その誤解どこから来た!?」
俺ってそんなに遊んでいるように見えるかな。少しショックだよ。誠実さだけが取り柄なのになぁ。
「ね、ねぇ? ヤリチンじゃないならさ……今は彼女とか居たりしないの?」
「居ませんよ」
「良かったぁ。もし彼女さん居たら私の間女になる所だったなぁ。NTRは書かない主義なんだ私」
間女ってあまり聞かない言葉だけど、つまりは浮気相手みたいな意味だよな。
俺とそういう関係になりたい願望があるんじゃないか、みたいな勘違いをしてしまうから発言には気を付けてほしい、本当に。
「ち、ちなみに、どれくらいの期間彼女が居ないのか……とか聞くのは失礼だよね」
「失礼ですよ」
「ご、ごめんなさい! こっちからお願いごとしている立場なのに勝手にプライベートに踏み込み過ぎました! 本当、ごめん」
少し冷たい反応になってしまったが、俺が経験なしってことを知られて、大いにからかわれる未来が安易に想定できたからこの返しがベストだ。
しゅんっ俯いてしまった春ちゃんをなだめるように頭を撫でると、俺は即座に話題を変えてみた。
「さて、今日はどんなお手伝いをすれば良いのですか? 昨日みたいにイラストについて感じたことを語ればいいのかな?」
「…………」
キョトンと目を見開きながら、口を半開きにして驚いたような顔を向けてくる春ちゃん。
「どうしたの? 春ちゃん」
顔が赤い。
まさか熱中症とかじゃないだろうな?
少し顔を近づけて瞳の奥を覗き込んでみる。
更に熱を上げたように赤みの着色が濃くなった。
「このヤリチンっ! 経験人数2桁以上のムーブだ! こうやって何人もの女の子を落としてきたんだね! 見損なったよ冬くん!!」
「失礼すぎることこの上ない!? 急にどうした!?」
「あ、あああ、頭をナデナデしてきたりとか! 急にビックリしたじゃんか!」
初めて聞くレベルの大声の言い返しに、ついこちらも身動ぎして驚いてしまう。
「バレないようにさりげなく撫でてみたのですが、やっぱりバレましたか」
「なぜバレないと思った!? 分かるに決まっているでしょ!?」
普段妹にやるようについつい撫でる行為をしてしまったが、昨日会ったばかりの女性にやるのはさすがに非常識だったな。
「ごめんなさい。ちょっと調子に乗り過ぎてました」
「ま、まぁ、謝ってくれたから許すけどさ? 今度からはそういうことするときは先に一言いうんだよ?」
「…………」
一言いえばやっていいの?
「冬くんのせいで話が脱線しまくったじゃないの! そろそろ本題の小説の話に入るけど——」
「春ちゃん。撫でるね」
彼女の言葉を遮って春ちゃんの頭に手を置いた。
髪のセットを崩させないように優しく左右に手を揺らす。
「ぬひゃああああっ!? ビックリしたぁ!」
「ビックリしたのはこっちですよ。急に大声で叫ばないでください」
「叫びたくもなるよ! ど、どうしてまた撫でてきたの!?」
「理由はないですが」
「理由もなしに撫でてきたの!?」
「ちゃんと先に一言いったし……」
「だからなんだ!? 私が『いいよ』って許可してから撫でなさい! ていうか不意打ちで撫でてくるな! 理由もなしに女の子の頭を触ってこないの!」
「女の……『子』?」
「そこに疑問を持たないの! 女の『子』だよ! まだ10代だもん! ギリギリ10代だもん!」
ギリギリってことは19歳か。
大人っぽく見えるから20歳は超えていると思った。
「ち、ちなみに冬くんは年いくつなの?」
「わっ、男性に年を聞くなんてちょっとデリカシーに欠けてますよ」
「別にいいでしょ!? ていうか散々デリカシーに欠けた行動してきた人がそれを言うなぁぁぁっ!!」
今日一番の雄叫びが河原の水面を小さく揺らす。
猛暑日の熱気も伴ってか、春ちゃんの顔は汗を散らしながら真っ赤に染まりきっていた。
◆ ◆ ◆ ◆
春ちゃんにお願いされた通り、俺は昨日と同じ時間、同じ場所で読書をしていた。
そういえばイラストでは男の傍には飲料が置かれていたっけ。
俺は何となくそれを真似してサイドに飲み物を置いてみる。
片足を伸ばし、左手で本を持つ。
うん。どこからどう見てもイラストの男子そのものだ。
「…………」
「…………」
俺は本に視線を移しているのだが、どうしても本以上に気になるものが存在していた。
俺の隣でじっとこちらを見つめてくる『彼女』の存在だ。
「…………」
「…………」
うん。限界だ。
この状況で読書を続けられるほど俺の神経は図太くない。
「……春ちゃん。どうして無言でこっちを見つめ続けてるの?」
「冬くん、や~っと気づいてくれたね」
「いや、10分前から隣に座られた時点で気づいていたけど」
水月春香さん。
彼女は突然俺の横にやってきて、挨拶もせずに読書をしている俺の目をただじっと見つめていた。
どうして言葉をかけてこないのか疑問だったが、春ちゃんには春ちゃんの深い考えがあるのだろうと思い、俺も無言を貫いていた。
しかし、そのにらめっこは長くは続かず、ついに俺の方からギブアップをしてしまったのだった。
「このイラストってさ。二人の間に会話は発生していないように見えなくない?」
春ちゃんが例のイラストを俺に見せてくる。
言われてみればその通りだ。
イラストの男女は口が開いていない。仲の良い男女が会話のない空気を楽しんでいるように見えた。
「あっ、だから話しかけてこなかったんですね。会話の無い空気感を楽しんでいたんだ」
「そのつもりだったけどさ、正直1分で飽きたよ。、私、『会話の無い男女の空気感』ってやつを楽しめない人種だったみたい」
「あらら」
「正直『早く話しかけてこいこのヤリチンが』ってずっと思いながらキミを見ていたよ」
「美女がそんな汚い言葉を使わないでください!」
「ヤリチンなんでしょ?」
「違いますよ! その誤解どこから来た!?」
俺ってそんなに遊んでいるように見えるかな。少しショックだよ。誠実さだけが取り柄なのになぁ。
「ね、ねぇ? ヤリチンじゃないならさ……今は彼女とか居たりしないの?」
「居ませんよ」
「良かったぁ。もし彼女さん居たら私の間女になる所だったなぁ。NTRは書かない主義なんだ私」
間女ってあまり聞かない言葉だけど、つまりは浮気相手みたいな意味だよな。
俺とそういう関係になりたい願望があるんじゃないか、みたいな勘違いをしてしまうから発言には気を付けてほしい、本当に。
「ち、ちなみに、どれくらいの期間彼女が居ないのか……とか聞くのは失礼だよね」
「失礼ですよ」
「ご、ごめんなさい! こっちからお願いごとしている立場なのに勝手にプライベートに踏み込み過ぎました! 本当、ごめん」
少し冷たい反応になってしまったが、俺が経験なしってことを知られて、大いにからかわれる未来が安易に想定できたからこの返しがベストだ。
しゅんっ俯いてしまった春ちゃんをなだめるように頭を撫でると、俺は即座に話題を変えてみた。
「さて、今日はどんなお手伝いをすれば良いのですか? 昨日みたいにイラストについて感じたことを語ればいいのかな?」
「…………」
キョトンと目を見開きながら、口を半開きにして驚いたような顔を向けてくる春ちゃん。
「どうしたの? 春ちゃん」
顔が赤い。
まさか熱中症とかじゃないだろうな?
少し顔を近づけて瞳の奥を覗き込んでみる。
更に熱を上げたように赤みの着色が濃くなった。
「このヤリチンっ! 経験人数2桁以上のムーブだ! こうやって何人もの女の子を落としてきたんだね! 見損なったよ冬くん!!」
「失礼すぎることこの上ない!? 急にどうした!?」
「あ、あああ、頭をナデナデしてきたりとか! 急にビックリしたじゃんか!」
初めて聞くレベルの大声の言い返しに、ついこちらも身動ぎして驚いてしまう。
「バレないようにさりげなく撫でてみたのですが、やっぱりバレましたか」
「なぜバレないと思った!? 分かるに決まっているでしょ!?」
普段妹にやるようについつい撫でる行為をしてしまったが、昨日会ったばかりの女性にやるのはさすがに非常識だったな。
「ごめんなさい。ちょっと調子に乗り過ぎてました」
「ま、まぁ、謝ってくれたから許すけどさ? 今度からはそういうことするときは先に一言いうんだよ?」
「…………」
一言いえばやっていいの?
「冬くんのせいで話が脱線しまくったじゃないの! そろそろ本題の小説の話に入るけど——」
「春ちゃん。撫でるね」
彼女の言葉を遮って春ちゃんの頭に手を置いた。
髪のセットを崩させないように優しく左右に手を揺らす。
「ぬひゃああああっ!? ビックリしたぁ!」
「ビックリしたのはこっちですよ。急に大声で叫ばないでください」
「叫びたくもなるよ! ど、どうしてまた撫でてきたの!?」
「理由はないですが」
「理由もなしに撫でてきたの!?」
「ちゃんと先に一言いったし……」
「だからなんだ!? 私が『いいよ』って許可してから撫でなさい! ていうか不意打ちで撫でてくるな! 理由もなしに女の子の頭を触ってこないの!」
「女の……『子』?」
「そこに疑問を持たないの! 女の『子』だよ! まだ10代だもん! ギリギリ10代だもん!」
ギリギリってことは19歳か。
大人っぽく見えるから20歳は超えていると思った。
「ち、ちなみに冬くんは年いくつなの?」
「わっ、男性に年を聞くなんてちょっとデリカシーに欠けてますよ」
「別にいいでしょ!? ていうか散々デリカシーに欠けた行動してきた人がそれを言うなぁぁぁっ!!」
今日一番の雄叫びが河原の水面を小さく揺らす。
猛暑日の熱気も伴ってか、春ちゃんの顔は汗を散らしながら真っ赤に染まりきっていた。
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