「ねえ」

「……はい」



 僕は突然話しかけられたことに驚きつつも、つい返事をしてしまう。
 この人と僕、初対面だよな……。それにしては妙に馴れ馴れしいというか。僕が忘れているだけで、どこかで出会ったことあるとか……?



「この近くにATMない? 今日、財布忘れちゃってさぁ。お金降ろさないと昼ご飯買えないんだよね」

「……はあ」

「結構ピンチ。お腹空いた。ATMの場所、知ってたら教えて」



 初対面の人。ATMの場所を聞かれ、お金がないと言われる。冷静に考えたら、詐欺現場にしか思えない。だけど、この人は本当にお腹を空かせているようで。さっきから、お腹が鳴っている音が聞こえてくる。



「……あっちにコンビニならありますけど。そこにあると思います」

「そうなのか! ありがとう! さっきからATMの場所を聞いてるのにさ、誰も教えてくれないんだよね」



 そりゃそうだろう。不審がっても仕方ないと思う。
 でもまあ、これでほんの少しの人助けはできたみたいだし。これでこの人もどこかへ行ってくれるはず……。



「って、ああっ!」

「……次はなんですか」

「お財布の中にキャッシュカード入れてるから、お金降ろせないんだ……」

「アホですか」



 はあぁ、と大きなため息をつく彼女。ふらふらとうなだれながら、こちらへ歩いてくる。
 そのまま僕の隣の日陰に腰掛けた。



「なんで隣に……」

「時間つぶし」

「えぇ……」



 僕のお気に入りの場所が、初対面の人に取られた気分になった。僕の所有地じゃないからなにも言えないけれど……。これじゃあ、ゆっくりと本も読めない。