玄関を出て朝の空気を思いきり吸う。
 緊張してきた。心臓がバクバクする。でも、大丈夫だ。僕は覚悟を決めたんだ。



「あれ、智也? ……智也! おはよう!」



 隣の家から聞こえる明るい元気な声。僕はパッと顔を上げる。



「優衣、おはよう」

「……学校、一緒に行こう!」



 少し不安で心細くなっていた気持ちが、優衣のおかげで軽くなった気がした。



「優衣」

「ん?」

「心配かけてごめん。今日からまた学校行くから」

「うんっ。また智也と学校でも会えるの嬉しいよ!」

「あと、ありがとう。……本とか貸してくれたりとか」



 気持ちを伝えるって勇気がいる。だけど、優衣に会ったら伝えるって決めていたから。
 優衣は僕からそんな言葉を聞くなんて予想外だったのか、目を丸くしている。



「優衣」

「えっ、あ、なに?」

「優衣は。……彼氏とか、いたりする?」

「えっ⁉ なに、急に⁉ い、い、いないけど……っ」

「良かった。……今日の放課後。教室に残っていて欲しい」



 一歩ずつ、前に進もう。たとえ、何度くじけたとしても。そのたびに立ち上がって、前に進みたい。
 目の前に大きな壁が立ちふさがっていたとしても、それを乗り越えられるきっかけはきっとあるはずだから。






 教室のドアの前に立つ。
 僕は大きく深呼吸をして、ドアを開けた。



「お、おはよう……っ」