「明日、学校に行く」

「うん」

「朝、クラスメイトに挨拶してみたい」



 それで僕は、優衣に気持ちを伝えたい。覚悟ができた。
 僕は光莉さんの目を見た。光莉さんの目は優しい綺麗な色をしていた。
 改めて言うのは恥ずかしい。なんだか照れる。だけど、大切なことだから伝えたい。



「光莉さん、ありがとうございます。僕、明日学校に行きます」

「うん」

「なんかスッキリしました。光莉さんに話聞いてもらえてよかったです」

「私は何もしてないよー。だけど、君のいい表情、2回も見れちゃったなぁ」



 光莉さんの言ういい表情って、どんな顔だろう。僕にはよく分からないな。



「顔を真っ赤にしながら、強い意志を宿した目」

「え?」

「ほんといい表情するよねー。かっこいいよ」



 にっ、と笑って光莉さんは立ち上がった。



「そろそろ行かなきゃ。休憩時間終わっちゃ、って終わってるー⁉」



 光莉さんは左腕にはめている時計を見ると大きな声を出した。



「やばいやばい、行かなきゃ! 遅刻しちゃう! ってもう遅刻してるんだけどっ」



 そう言って光莉さんは慌てて自転車に飛び乗った。



「じゃあね! 智也少年! また会う日まで!」



 光莉さんは僕の返事を聞かずに自転車に乗って行ってしまった。その背中が見えなくなるのはあっという間のことで。本当に忙しい人だ。
 ……また会う日まで、か。
 なんか、かっこいい言葉だな。
 光莉さんとまた会う日までに、僕は成長できているかな。次に会うときは、学校での話をいっぱい聞いてほしいな。それと、優衣の話も。
 また会う日まで、とりあえず頑張ろう。
 僕は、太陽の光に当たってしまったペットボトルを手に取る。時間が経ってすっかりぬるくなってしまった水。
 本とペットボトルをバッグにしまって立ち上がる。
 帰って、明日の学校の準備をしよう。久しぶりの学校だから忘れ物がないか心配だ。
 なんだかソワソワするな。
 ……でも、この気持ちも悪くはない。