「小学校卒業してから、僕たちは地元の中学に入学したんです。まあ、当然、小学校で同じクラスだった奴らもいるわけで。中学生になっても無視や嫌がらせは続いたんです」



 最初こそ僕は、嫌がらせに屈しないようにしていたけれど、それもどんどん疲れてきちゃったんだ。毎日のように神経すり減らして学校に通う。他のクラスメイトのことが憎くて仕方なくなってきた。



「だけど、優衣は僕には笑うんですよ」



 自分だって苦しいはずなのに、何事もないかのように明るく笑って。



『智也ー。背中丸めて歩いていたら空の色も見えないぞっ』



 中学からの帰り道。そう言って僕の背中を叩いた優衣。
 びっくりして顔を上げると、そこには優衣の笑顔を照らす綺麗なオレンジ色の空が広がっていた。
 オレンジ色の光は僕と優衣を優しく包み込んでくれているような、そんな気がしたのを覚えている。



『智也、消しゴム貸してー』



 なんでだよ、自分の使えよ。
 そう思いながら貸した消しゴム。人の消しゴムで、なにをそんなに消しているんだろう。宿題か?
 何気なく優衣の手元を覗いた放課後の教室での出来事。
 優衣は便箋に一生懸命、文字を綴っては消していた。……手紙?



『ちょっと、見ないでよ!』



 じゃあ、家で書けよ。誰宛の手紙かも分からない、優衣が書いている手紙。なんかモヤモヤしたのを覚えている。



『智也、お誕生日おめでとう!』



 八月七日。15歳の僕の誕生日に優衣は家にやってきた。少し日に焼けた手で渡された封筒。
 ……手紙? じゃあ、あのとき書いていた手紙は僕宛の手紙だったのか……?
 頬が赤くなったのを、夏の暑さのせいにしたのを思い出す。
 ……優衣はいつだって、僕と一緒に居てくれた。
 智也、智也、って僕のことを呼ぶ姿が可愛くて仕方がなかった。
 ……可愛くて、仕方がない。



「智也くんさ、優衣ちゃんのことが好きなんでしょ?」

「——っ、!」

「図星?」

「そ、そそそんなわけ!」

「動揺しすぎ」



 光莉さんは真っ赤になった僕の顔を覗くように見てくる。
 僕は優衣のことが……。好き、だと思う。
 はっきり意識したことがなかったから、分からなかったけど、僕は。
 ……優衣のことが好きだ。