「私の友人です。帰りがけに何者かに襲われて、怪我をしたのです。」

そして大きく裂かれた傷を見て、父親と母親は、震え上がった。

「母上、お酒を持って来て下さい。父上、清潔な布はございますか?」

「ああ……」

一家総出で、自分の傷を治療してくれようとしている。

今までは、そんな事当たり前のように、思っていたのに。


「手間を取らせる……」

「何を仰っているのですか。傷を負った者を治療するのは、人として当たり前の事ですよ。」

「だが私は、斬られたまま、死んでいく者を、何千人と見てきた……」

黒い髪で目を隠す信志に、将拓は居たたまれなくなる。


信志は、ただ王家に生まれたと言う理由だけで、そんな辛い思いを、一人で受け止めているのだ。


「将拓、これでいいかい?」

母が樽から酒を注いできた。

「十分です。」

将拓は、酒の入った徳利の、蓋を外した。

「信志様。少し滲みますぞ。」