将拓は、信志の隣にある樽に、同じように座った。

「召し使いでも、王の側女になれると言うのは、本当でしょうか。」

「その事か……」

信志は、ため息をついた。

「召し使いには、地方から出てきた女が、沢山召し抱えられている。もし私が所望すれば、そなたが申す通り、側女にはできるやもしれない。」

「では……」

身体を自分に向けた将拓の膝に、信志は手を置いた。

「だが、今までそんな話は、聞いた事がない。あるのは役人に弄ばれて、誰が父親か分からぬ子を、母一人で育てている、そんなものばかりだ。」

将拓は、唖然とした口を開きっぱなしだ。

「それに安心してくれ。私は黄杏を、召し使いにするつもりなど、微塵もない。」

そして二人はまた、前を見るばかりとなった。


「さすれば、どうなされるおつもりですか?」

信志は、息を飲み込んだ。

「私は、黄杏のたった一人の兄です。妹が不幸になるのだけは、見ておけません。」